子どもの育ち、受け入れ可能枠、財源確保の三つ巴の行方
こども家庭庁の「こども誰でも通園制度の制度化、 本格実施に向けた検討会」第2回会議が9月26日に開かれ、来年度の試行的事業や再来年度の本格実施に向けた今後の進め方について協議しました。
この中で、保育現場の関心が高い「月10時間」の利用上限時間については、もっと引き上げるよう求める意見が出される一方、「月10時間」上限でよいとする意見や、「月10時間」を超える分は一時預かりとの併用すればよいという意見が出されるなど、それぞれの立場や考え方によって意見が分かれました。
これに関して、同会議に示された構成員提供資料によると、全国認定こども園協会の王寺直子・代表理事は、「一時預かり事業と異なり、乳幼児の豊かな成長を支えることにあるのであれば、月10時間では到底足りない」として、生活時間の面からも「利用時間枠を最低4~5時間は必要」との考えを示しています。
これに対して、NPO法人子育てひろば全国連絡協議会の奥山千鶴子・理事長は、月10時間以上の利用枠の拡大について「対象児童の人口、供給体制含め十分試行実施の現状を見極めて実施すべき」と述べ、その供給体制が整うまでは「月10時間を超える利用枠については一時預かり事業が対応せざるをえないのではないか」と、当面は月10時間上限もやむなしとしています。
また、杏林大学の清原慶子・客員教授(前東京都三鷹市長)は、「可能な限り多くのこどもたちによる本制度の利用の実現を最優先に考えて、まずは幅広い利用者の利用を視野に入れた【上限10時間】で開始することが適切である」との考えを表明しました。その上で、上限を超えるニーズがある場合は「一時預かりその他の未就園児を受け入れる取組みなどの幼児教育・保育サービスとの連携が円滑にできるような仕組みづくり」を進めるよう求めています。
これに対して、倉石哲也・武庫川女子大学教授は、月10時間上限を議論する際に「一体何時間であれば利用するこどもにとって妥当なのかの意見交換も必要である」「週何時間程度(短時間)保育を利用することが、こどもの成長発達にとって望ましいと考えられるのか、試行的事業実施者の声をエビデンスとして共有しながら意見交換する場が必要である」との見解を示しています。
一時預かりとの併用に関しても、倉石教授は「試行的実施で認めている一時預かりどの程度活用されているのか、利用の動向を把握したい」とした上で、その結果によって「誰でも通園」と「一時預かり」の「事業目的の違い、給付と補助の建付け等の在り方を含めた議論が必要」だと指摘。「両事業をこのまま併用することは利用者側、保育者側にとって合理的な事業運用にならないのではないか」と安易な併用には慎重な姿勢を示しました。
確かに倉石教授が指摘するように、十分なエビデンスがないまま、それぞれの立場での意見表明がなされただけであり、実施期間がまだ短いとはいえ現在取り組んでいる試行的事業の実施状況も明らかにされていません。
「月10時間」という利用上限の問題は、本来、第一義的に子どもの育ちの面からどうなのかという点こそ検討すべき課題なのですが、上限時間の大幅な引き上げは未就園児を受け入れできる利用可能枠の問題や、相当な規模の財源確保の問題が絡んでいるだけに、実際には“落とし所”をどこに求めるか、残念ながら妥協点を探ることがポイントになっているように思われます。
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