少し前のことになりますが、保育施策等の検討に係る調査及び資料作成業務に通り組んでいた大阪府堺市は、この事業の一環として昨年11月に子どもや保護者に対する実地調査・アンケート調査や協力施設へのアンケート調査を行い、その結果を取りまとめました。
その中で、非常に興味深いのは、保育施設に通う5歳児にヒアリングを行い、保育の中でどのようなことを感じているかを聞き取っていることです。というのも、この春に誕生したこども家庭庁では、「(こどもまんなか社会の実現に向けて)こどもや若者のみなさんの声を聴き、反映し、こどもや若者の視点に立った政策を実現するとともに、各府省庁や地方自治体と連携し、こども・若者の意見を聴き政策に反映する取組を社会全体で推進していきます」という考えを明確に示しているからです。
実際に、地方自治体でも、政府の子供・若者育成支援推進大綱に基づく子供・若者計画を作成する際に、中高生から意見を聴取して計画に反映させているところがいくつかあります。しかしながら、就学前の幼児から意見を聴取するというのは、それほど簡単なことではありません。堺市の場合は、モデル園6施設に限定して実施したとはいえ、5歳児を対象にヒアリングを行ったということで、幼児からも意見を聞き取ることが可能であることを示しています。
具体的には、各保育施設の取り組みに対して、そこに通う5歳児がどのように感じているかヒアリングで確認しました。調査にあたっては、保育に関する大学研究者の指導を受けながら、次のような方法で実施しました。
・事前に保護者に子どもの調査参加の承諾をとる。(施設を通じて依頼書を配布・回収)
・5歳児がリラックスして参加できるよう、普段使っている施設の部屋で行った。
・子どもたちの関係を把握しているクラス担任にお願いし、5歳児を仲良し同士の3名程度のグループに分けた。
・話しやすい雰囲気を作るため、ヒアリング担当者(研究者・保育士)が事前に保育参加してコミュニケーションをとるとともに、普段の保育において楽しいと感じていることを絵にかいてもらい、ヒアリングのきっかけに活用した。
・各グループ15~30分程度でヒアリングを行った。
なお、5歳児の保護者に対してもアンケートを行い、施設の取り組みに対する認識・意識を確認しています。アンケートの内容は、①取り組んでいる保育内容の認知・認識度、②取り組んでいる保育内容に対する賛同度、③子どもに感じてほしいことの実感度、④保護者に感じてほしいことの実感度、⑤子ども・保護者の実感への保育内容の影響といったものです。
調査結果報告をみると、例えばE園の場合、施設が「取り組みを通じて子どもに感じてほしいこと」として、「健康で安全な生活を送るためにどんなことが必要か、発達に応じながら自ら・みんなで考え、挨拶やお礼が言えて、約束や決まりを守ることの大切さを知る」に着目して、園の取り組みの効果を読み取ることができる5歳児の発言(適宜意訳)を抽出したところ、次のような5歳児の声が聞かれました。
○「ゴミがあってもお話が終わってから捨てる」
○「鬼ごっこやドッジボール・サッカーは」小さい子(3・4歳児クラス)がいたら(危ないから」しない)
○「(こども園に行きたくない時)おもちゃで遊びながら来たら行ける(車の中で)」
○「(ヒアリング途中のトイレに際して)今から抜けます。今、戻りました」
保護者アンケートでは、これらの取り組みに対する認知度や賛同度、実感度なども高い様子が見て取れます。
ここで大事なことは、5歳児を対象にしたヒアリングから園の取り組みの効果をどう読み取れたかということもさることながら、保育や遊び、園での生活に関して5歳児から意見聴取することが十分に可能であるということです。3歳未満児はともかく、少なくとも4・5歳の気持ちや思い、考えなどを聞き取ることは可能であり、それを保育の改善につなげていくことも可能であることが示唆されているように思います。
これに関連して、同市が今年3月にまとめた報告書では、保育指針や教育・保育要領の「園児と共によりよい教育及び保育の環境を創造するように努める」「―人一人の子どもの気持ちを受け止め、援助する」といった記載を引き合いに、「保育の受け手である子どもがどう感じているかという視点を取り入れることが指針等の実現並びに保育の質の向上に繋がるのではないか」という問題意識を示しています。その上で、「子どもと子どもの日々の成長を間近で見ている保護者が、施設が提供する保育をどう感じているかを調査することで、保育を受ける側と提供する側の認識のギャップなどを洗い出し、その内容について、保育者が振返りを行い、施設が提供する保育が子どもにもたらす良い効果やその課題を把握することで、今後の保育の実施に活かしてもらう」ことを目的に掲げています。