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幼児教育の普及で少年の暴力犯罪が減少!?

 

幼児教育への投資は社会の安定や発展にも貢献


 1960年代における幼児教育の拡充が、少年の暴力犯罪の減少や10代の妊娠率の低下につながった──こんな調査研究結果が明らかになりました。これは、東京大学大学院経済学研究科の山口慎太郎教授、立教大学経済学部の安藤道人教授、専修大学経済学部の森啓明准教授らの研究グループが取り組んだもので、幼児教育の長期的な影響を実証したのは初めてと言えます。

 今回の研究では、1960年代に進められた就学前教育の推進により幼稚園就園率が大幅に上昇しましたが、自治体によって大きな地域差があったことから、就園率が大きく上昇した県とそれほど変化しなかった県を比較して、幼児教育の長期的な影響を統計的に分析しています。

 着目したのは、少年の暴力犯罪と10代の妊娠率で、これらと幼稚園就園率の変化との関係を調査しました。その結果、幼稚園就園率が大幅に上昇した県のほうが、就園率がそれほど上がらなかった県に比べて、少年による暴力犯罪の減少傾向が大きいことや、10代の妊娠率が低下傾向にあることが明らかになったとしています。

 これについて、研究グループが発表したプレスリリースでは、「幼児教育の拡充により、少年の暴力犯罪率が約34%減少し、10代の妊娠率が約17%低下しました」として、「幼児教育が学力向上にとどまらず、成長後の行動にも影響を与えることを示唆しています」と述べています。

 また、リリースは、こうした結果が見られた背景として、「幼児教育が非認知能力の向上に寄与した可能性があります」「幼児教育が衝動的な行動や問題行動を抑制する要因となりうることを示唆しています」との見解を示しています。

 さらに、リリースでは、今回の調査研究により得られた政策的な示唆として、「幼児教育への投資は、教育の機会を平等にするだけでなく、長期的に社会の安定や発展にも貢献することが期待されます」と述べ、幼児教育の意義や効果を説いています。

 

〔補足説明〕

 プレスリリースには詳細な説明がありませんが、「1960年代における幼児教育の拡充」というのは、文部省が「第1次幼稚園教育振興計画」(1964~1970年度)を策定し、幼稚園教育の普及・整備の推進を図った時期のことを指していると思われます。この第1次計画では、人口1万人以上の市町村における5歳児の就園率を63.5%まで高めることを目標としていました。

 第1次計画が終わった2年後には、第2次幼稚園教育振興計画(1972~1981年度)が策定され、入園を希望するすべての4歳児、5歳児の就園を目標とし、そのための整備が進められました。その結果、1960年から1970年にかけての10年間に、園児数は2.3倍、園数は1.5倍にまで増えました。就園率は、1960年の28.7%から1970年の53.8%へと大幅に上昇しました。

 ただ、今回の調査研究では、都道府県ごとの就園率の上昇の程度(高低)をどのように区分したのかが示されていないほか、公立幼稚園と私立幼稚園の普及の違い、幼稚園と保育所の分布の違いなどによる影響がほとんど考慮されていません。

 さらに、都市部と地方部の違いが及ぼす影響もほとんど加味されていないように思われます。少年の暴力犯罪率や10代の妊娠率は、当時の都市化の程度によっても異なる可能性があり、また家庭の状況(親の学歴や経済力、職業など)による影響も大きいと考えられるだけに、どこまで幼児教育の影響が強かったと言えるのかどうか、もう少し複合的な観点から分析していただきたかったと思います。

 余談ながら、幼稚園就園率は、小学校第1学年の児童に占める幼稚園修了者の割合のことで、1979年に64.4%とピークを迎えますが、現在では保育所の拡充や認定こども園の拡大などもあって、2024年には33.4%まで低下しています。

 また、近年の小中高校生の暴力行為発生件数をみると、2013年から2023年にかけての10年間で、人口1000人当たり4.3人から8.7人へと2倍以上増加しています。これは、幼児教育との関係から言えば説明がつきません。

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