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執筆者の写真吉田正幸

谷川俊太郎さんを追悼する

 

絵本『わたし』について語ってくれたこと


 日本を代表する詩人の谷川俊太郎さんが、11月13日に亡くなりました。92歳でした。

 「二十億光年の孤独」をはじめとする現代詩ばかりでなく、アニメ「鉄腕アトム」の主題歌や「マザー・グースのうた」の翻訳、ラジオドラマのシナリオや戯曲、映画の脚本も手掛けるなど、幅広い分野で活躍されました。

 実は、今から7年あまり前に、フレーベル館の月刊誌「保育ナビ」(2017年8月号)の対談で谷川さんとお会いしたことがあります。杉並区のご自宅にお邪魔し、いろいろお話しをさせていただきました。

 直接お目にかかって、どうしても聞きたいことがありました。それは、谷川さんが今から40年以上前に描かれた絵本『わたし』の背景や本質が知りたいということでした。

 絵本『わたし』は、「やまぐち みちこ」という5歳の女の子が自分で詩を創ったという設定で創作された詩です。

わたし おとこのこから みると おんなのこ あかちゃんから みると おねえちゃん」というところから始まって、「おかあさんから みると むすめの みちこ」「けんいちおじさんから みると めいの みっちゃん」「さっちゃんからみると おともだち せんせいから みると せいと」「となりのおばさんから みると やまぐちさんの したの おこさん」「きりんから みると ちび」「おいしゃさんから みると やまぐちみちこ 5さい」「れすとらんへ いくと おじょうさん」といった具合に、大袈裟に言えば、そこには多様で豊かな関係性が描かれています。

 この絵本が生まれた背景を尋ねたところ、子どもの頃に夢中で読んだ吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』(岩波文庫)という本の中で、「『人間関係は網目になっている』ということが書かれていたのを、なぜかずっと覚えていました」という答えが返ってきました。

 また、谷川さん自身は「昔から一人遊びが好き」だったけれども、「そんな僕でも、詩を書き始めてからは読者や出版社、放送局や映画関係者など、仕事を通して関係が広がっていくにつれ、社会とのつながりについて考えるようになりました」とも語ってくれました。

 さらに、次のような示唆に富んだ話も聞かせていただきました。

「それ以上に結婚ですね。妻というのはいちばん身近で切実な他者であり、魂までかかわるような深い人間関係はすべて結婚から学びました。」

「子どもにとって親の肉声はとても大事。むしろ言葉以外のコミュニケーションが大事でね。僕自身、母親に愛された記惚が人生をすごく楽にしてくれたと大人になってから感じました。」

「薄い多数との関係よりも、濃い少数との関係のほうが今の時代には必要だろうと感じています。」

 絵本『わたし』は、最後にこのような言葉で終わっています。

 

わたし しらないひとから みると だれ? ほこうしゃてんごく では おおぜいの ひとり」

 

 心よりご冥福をお祈りいたします。

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