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「こどもまんなか」の未就園児受け入れとは

研究所メルマガvol.12

2023年11月4日

今月のメルマガ配信1

 今回のメールマガジンでは、「こども誰でも通園制度」や、その本格実施を見据えた試行的事業に関連した話題を取り上げます。そのほか、研究所WEBサイトの「お知らせ&情報」に最近アップしたニュースやトピックスをお知らせします。

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「こどもまんなか」の未就園児受け入れとは

 「こども誰でも通園制度」の本格実施を見据えた試行的事業の在り方をめぐって、こども家庭庁の検討会で論議が進められています。これに関しては、当研究所のWEBサイトでも再三にわたって取り上げてきました。

 特に、利用に当たって「月10時間」という上限時間を設けるということについて、果たしてそれで十分なのか疑問を呈してきました。なぜならば、「月10時間」上限で未就園児の健やかな育ちを保障できるか、説得力のあるエビデンスがないからです。もちろん、それが「月20時間」であっても、「月40時間」であっても、現時点で明確なエビデンスがないことは同じです。

 このエビデンスに関しては、国を挙げてEBPM(客観的な根拠や証拠に基づいた政策立案)を推進していくことを目指しており、こども家庭庁のEBPM研究会では、今年度の重点プロジェクトとして未就園児の預かりモデル事業も効果検証を行う対象となっています。

 未就園児の預かりモデル事業は現在、31市町村(50施設)で取り組まれており、その中間実績報告書が10月中旬には同庁に対して提出されています。来年3月には各市町村から最終報告書が同庁に提出され、その分析・検証が行われる見通しです。来年度早々にはスタートする試行的事業に間に合うかどうか分かりませんが、「こども誰でも通園制度」の本格実施に際しては、モデル事業の効果検証を踏まえた制度設計が可能になりますし、試行的事業の取り組み状況も反映されるものと考えられます。

 全国31市町村(50施設)におけるモデル事業の取り組みは、多種多様で必ずしも統一的に実施されているわけではありませんが、利用上限時間についても説得力のある説明が可能になるのではないかと期待されます。

 この国モデル事業に取り組むに際しては、子どもの発達に関する効果測定や、事業に関する課題検討を行う検討会を設置した上で、その検討内容や分析・考察を国に報告することが求められています。筆者は、品川区のモデル事業において、この検討会の座長を務めており、これまで会議が2回開かれました。

 現時点で詳細を述べることはできませんが、同区のモデル事業では、区が適切な保育事業者を選定した上で、区担当課と保健センター(保健師)と事業者(園長)が協働して利用家庭(要支援家庭)を選定し、7月から預かりを始めています。受け入れている未就園児は、保育所等の集団生活の経験が不足していることによる発達の遅さがあると判断された子どもですが、次のような効果が見られました。

◯母親がコップのみの教え方が分からず、子どもはお椀をもってスープを飲むこともできなかったが、1か月を過ぎるあたりから自分でコップで飲めるようになった。

◯父母以外の大人(保育士)との関わりや、ほかの園児とのコミュニケーションを通じて、当該児も成長を促され、言語発達につながったと思われる。

◯保育士や周りの園児たちからの刺激や影響を受けて食に興味を持ち、食への意欲につながったと思われる。

◯母親も、表情や反応、態度などが柔らかくなっているのを感じられた。

◯心理的安定や母子分離など定期預かり利用が母親に対して一定のプラス作用が働いたことが見て取れた。

 ちなみに、この園では、週2回、1回当たり6~7時間程度の預かりをおこなっているそうです。保健師が継続的に関わりながら、年間計画や月案なども作成して対応しており、保護者に対してもラーニングストーリーを活用して子どもの園での様子を伝えるなど、丁寧な保育を心掛けています。慣らし保育から初めて、保育者も手厚く配置し、当初はマンツーマンで受け入れるなど、保育現場の負担も少なくなかったようです。

 こうしたモデル事業の取り組み状況を見ていると、子どもの育ちの面だけでなく、受け入れる保育現場の負担や様々な配慮の面でも、やはり「月10時間」上限で大丈夫なのかという懸念が残ります。希望するすべての未就園児を受け入れるには、財源問題を含めて利用時間の上限をどう設定するかが大きな課題ではありますが、改めて「こどもまんなか」という理念に基づいたベストアンサーを出してくれることを願います。

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