ある日の地方版子ども・子育て会議から ~会議を通して見えてきた問題状況や課題とは?~
研究所メルマガvol.37
2025年1月26日

今回のメールマガジンでは、都内某区の子ども・子育て会議から見えてきた問題状況や課題などを取り上げました。ほとんどの自治体に地方版子ども・子育て会議が設けられていますが、幅広い子ども・子育て支援関係者から成る会議が、残念ながら十分に機能せず、せっかくの役割や影響力が低下してきているように思えます。そうした問題状況の一端を考えてみました。
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先日、筆者が副会長を務めている某区の第3回子ども・子育て会議が開かれました。この地方版子ども・子育て会議は、ほとんどの基礎自治体に置かれていますが、2015年度から新制度が始まった頃に比べて、その役割や影響力が低下してきているように感じられます。
新制度の施行から10年近く経ったことや、新型コロナウイルス感染症拡大による約3年間に及ぶ停滞期間などもあって、地方版子ども・子育て会議の存在意義が徐々に薄らいでいるのが実態ではないでしょうか。
とはいえ、子ども・子育て支援に関する現状や課題、施策動向など、地方版会議から見えてくるものも少なくないだけに、さらなる会議の活性化や運用改善、活用に向けた方策について、市区町村の関係部局のみならず教育・保育関係者、子ども・子育て支援関係者においても、問題意識を持って考えていただきたいものです。
そんなことの一助や手掛かりになればという期待を込めて、先日開かれた東京・某区の子ども・子育て会議から見えてきた課題や問題、新たな変化、可能性などを考えてみたいと思います。
〔会議の在り方〕
今年度は第3期事業計画を策定する重要な年でありながら、年間を通して3回しか会議が開催されず、委員の意見を汲み上げたり、反映したりする機会が十分にあったとは言い難いのが実情でした。第3回会議では、来年度(今年4月)から始まる子ども・子育て支援事業計画の案をめぐって協議しましたが、既にパブリックコメントも済んでおり、計画に委員の意見を反映する余地はほとんどありませんでした。
11月中旬に開催された第2回会議では、事業計画の素案について協議しましたが、教育・保育や地域子育て支援に関する向こう5年間の量の見込みや供給確保策こそ示されたものの、需給計画の在り方として「公立保育所が調整弁になるなど柔軟な調整を図っていく」旨を盛り込んだだけで、供給縮小に向けての方向性について踏み込んだ説明はなされませんでした。
つまり、5年に1回の事業計画策定に関して、せっかくの子ども・子育て会議が回数の面でも、協議内容・タイミングの面でも適切に開催されなかったと言わざるを得ません。これまで比較的真っ当に取り組んできた自治体であっても、時間の推移とともに所管部局の担当者も代わり、コロナ禍を経て会議が沈滞化してきたというのが、長らく関わってきた者にとっての実感です。
〔少子化の影響〕
今回の会議では、今後の施設整備の状況が示され、保育施設の廃止や民営化が目につきました。廃止に関しては、小規模保育所(B型)2か所、事業所内保育所2か所の計4か所が今年3月末で廃止されます。区立保育所も3か所が廃止され、民営化されることになりました。
民営化した施設が、区立の頃より少し定員増しているため、全体として利用定員は若干増えていますが、東京23区であっても3歳未満児を対象とした小規模保育所や事業所内保育所が定員割れで経営難に陥りつつあるのが実情です。同時に、公立施設の民営化をはじめとした廃園や統廃合も徐々に進みつつあるようです。
〔新たな事業計画策定の難しさ〕
市区町村事業計画は、教育・保育や地域子育て支援に関する需給計画であるだけに、待機児童がピークアウトした後の需要の見込みを把握することが容易ではなく、供給過剰となった場合の供給抑制策、とりわけ私立(民間)施設・事業者の縮小や廃止等の見通しがなかなか立てづらいのが実情です。
今回の会議で明らかになったように、小規模保育事業所や事業所内保育所、認証保育所など規模の小さな施設や3歳未満児だけの施設に関して、いきなりの廃園を避けながらソフトランディングさせていくことが重要になるという印象を受けました。しかし、ソフトランディングに関する方針や考えは何も示されていません。
また、「こども誰でも通園制度」のような新たな制度、事業については、需給の見通しがなかなか立てられないだけではなく、制度理解も必ずしも十分ではないことが見えてきました。
例えば、第2回会議の際には、地域子ども・子育て支援事業の一つである一時預かり事業の中に「乳児等通園支援事業(こども誰でも通園制度)」を位置づけるなど、こども誰でも通園制度と一時預かりの区別が十分についていないことが明らかになりました。
そのことについて筆者が指摘したことを踏まえて、第3回会議では「乳児等通園支援事業(こども誰でも通園制度)」を一時預かりとは別の事業として位置づけました。ただ、事業の説明として、「就労用件を問わず、時間単位で柔軟に保育所などにおいて一時的に子ども(0歳6か月~満3歳未満)を預かる事業」と記述し、一時預かりと混同されやすい表現であったため、会長、副会長がともに表現を見直してもらうよう要請しました。
ただし、会議の委員の中に新しい制度や仕組み、事業に詳しい者がいない場合、こうした担当部局の勘違いや間違いに気付いたり指摘したりする者がないまま、事業計画が作られていく可能性があるということです。
〔その他〕
会議では様々な資料が使われますが、某区の会議では今年度から事前にメールで送られてくる会議資料を自分のパソコンやタブレットにダウンロードし、会議当日はパソコンやタブレットを持参するように変わりました。もちろん対応できない方は、区のほうで資料を用意しますが、ペーパーレスを推進しようとする取り組みが進んでいます。
また、会議では傍聴を認めていますが、今回の第3回会議からオンライン傍聴も可能としています。これにより、子どものいる傍聴者が子どもの体調悪化で欠席せずに会議を傍聴できるようになります。子連れ傍聴者のために用意した保育サービスが無駄になることもなくなりそうです。