top of page
デンマークに見る保育の質へのアプローチ

0~2歳児の保育の質の評価結果が明らかに!

2025年4月25日

 今回のメールマガジンでは、昨秋に訪問したデンマーク評価研究所で聞かせていただいた「保育の質に関する全国調査結果」を話題に取り上げました。

 0~2歳児に対する保育の質の評価ですが、驚くべきことに保育所等の半数近くは必ずしも質が高くない(不十分である)という結果が明らかになりました。とはいえ、同じ評価ツールで他の国の保育について調査したわけではないので、一概にデンマークの保育の質が低いとは言い切れません。

 ただ、大事なことは、この調査結果を保育者の資格のグレードアップや資質の向上、職員配置の改善につなげようと政策的に取り組み始めていることです。

 昨年の10月下旬にデンマーク教育省の管轄下にある独立機関「デンマーク評価研究所(EVA=The Danish Evaluation Institute)」を訪れ、いろいろ話を聞かせていただきました。

 目的は、デンマーク評価研究所と国立福祉研究分析センターが保育の質について初めての全国調査を実施し、2023年秋に0~2歳児についての調査結果をとりまとめたと聞いたため、その概要やポイントを知ろうということでした。3~5歳児については、現在、調査・分析を実施中とのことで、早ければ今年か来年あたり公表されるかもしれません。

 そこで、今回のメルマガでは、デンマーク評価研究所でプレゼンテーションしていただいた資料や関連データを少し整理できたので(半年も時間が経ってしまいましたが)、そのエッセンスをごく簡単に紹介しておきます。

 0~2歳児の調査結果については、意外な結果が明らかになっています。結論的なことから言えば、次のようなことが分かりました。

◇保育所の13%、家庭的保育の8%は質が十分であった

◇保育所の38%、家庭的保育の46%は質が不十分であった

◇保育所の49%、家庭的保育の39%は、子どもたちのウェルビーイング、学習、発達、教育などを十分に支えているが、要支援など弱い立場にある子どもたちにとってプラスの効果をもたらすことは期待できない

◇優れていると評価された保育所や家庭的保育はなかった

◇多くの施設では、教育学習環境が幼児の発達と幸福をある程度までしかサポートできないことが予想される

 また、調査によると、保育所の場合、保育者の48%がECECの学⼠号を取得、32%が正式なECEC研修を受けていない、9%が職業レベルのECEC訓練を受けている。家庭的保育の場合は、66%が職業教育以上の学位を取得、14%が中等教育を最⾼学歴とし、9%が後期中等教育を最高学歴とし、7%が何らかのECEC研修を受けている、4%がECECの学⼠号を取得している、ということでした。

 一方、職員配置については、保育所が保育者1⼈当たり2.9⼈の⼦ども、家庭的保育が保育者1⼈当たり3.8⼈の⼦どもとなっており、国際的に見てそれほど悪いわけではありませんでした(家庭的保育は良くありませんが)。

 こうしたことから、研究所の考えでは、①もっと心のこもった子どもとの関係が必要、②⼦どもの⼈間関係やコミュニティへのさらなる注目と⽀援が必要、③遊びの機会を強化する必要、④幅広い活動を提供する必要、⑤物理的な環境は遊びを促し、活動と集中をサポートするように開発される必要がある、と結論づけていました。

 この職員配置基準に関しては、2019年に制度化し、2024年から配置基準が義務化されたそうです。それによると、3歳以上児は子ども6人に対して保育者1人以上、3歳未満児は子ども3人に対して保育者1人以上ということで、日本から見るとかなり手厚い基準と言えそうです。

 さらに、デンマークでは、地方自治体が保育所等を所管していますが、2022年から自治体による保育サービスの監督要件を強化する規則が導入され、今後は保育者の資格取得や資質向上など保育者の専門性を強化する取り組みに力を入れると聞いています。

 なお、質の評価に関しては、デンマークで開発されたKIDSと呼ばれる評価ツールを使っています。この評価ツールは、保育の質を「人間関係」(子どもと大人の関係、子どもへの支援、相互関係)、「物理的環境」(屋内、屋外)、「遊びと活動の機会」(子ども主導の遊び、子どもの遊びのサポート、大人主導の活動)という3つの領域で評価するそうです。

 KIDSそのものには、この3つの領域に加えて、「社会情緒の発達」「体験学習」「創造的思考と批判的思考」「自己と身体」「コミュニケーションと言語」など、ナショナル・カリキュラムと連動させた領域もあるようです。これらの領域に関する設問が数多く用意され、トレーニングを受けた観察者が評価したものをスコアにまとめて、最終的に「優れている」「良い」「十分」「不十分」「低レベル」という5段階で評価されます。

 余談ですが、研究所の方に「欧米などでよく使われているECERSとKIDSはどう違うのですか」と尋ねたところ、「私たちが考える保育の質や評価はアングロサクソンの人たちとは違う」と言われ、北欧の文化の違いを認識させられました。

bottom of page