人口減少を前提とした保育政策への転換 ~令和10年度末を見据えた政策の方向性とは~
研究所メルマガvol.35
2024年12月25日
今回のメールマガジンでは、こども家庭庁がこのほど公表した「保育政策の新たな方向性」を取り上げました。ポスト待機児童時代を見据えて、量的対応から質的対応への転換を目指したもので、特に人口減少地域における保育機能の確保・強化に向けた政策が実を結ぶのかどうか注目されます。
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こども家庭庁は12月20日、人口減少社会を前提とした「保育政策の新たな方向性」を公表しました。これまでの待機児童対策を中心とした量的対応から、質の高い保育の確保や保育機能の維持へと政策の軸足を移そうというもので、今後の保育政策の方向性について、政策の軸の転換を明らかにするのは異例のことです。
今回公表された「保育政策の新たな方向性」は、「持続可能で質の高い保育を通じたこどもまんなか社会の実現へ」というサブタイトルが示すように、待機児童のピークアウトを見据えて、「保育の量の拡大」から保育の持続可能性や質の確保・充実への転換を図るための政策を示したものです。いわばポスト待機児童時代の新たな保育政策を目指すための決意表明とも言えそうです。
同庁が公表した資料によると、令和7年度から令和10年度末を見据えた保育政策として、①地域のニーズに対応した質の高い保育の確保・充実、②全てのこどもの育ちと子育て家庭を支援する取組の推進、③保育人材の確保・テクノロジーの活用等による業務改善という3つの柱を軸に推進する方針を示しています。
このうち、地域のニーズに対応した質の高い保育の確保・充実では、「人口減少を含めた地域の課題に応じた保育の量の確保を図るとともに、こどもの育ちを保障するための保育の質の確保・向上の取組を進める」としており、その中で「人口減少地域における保育機能の確保・強化」を挙げています。
これについては、具体的な施策として「各自治体における現状・課題の分析に基づく計画的な統廃合や多機能化等の取組への支援(施設整備の補助率の嵩上げ)」や「人口減少に対応した公定価格」「地域の実情に応じた多機能化等の取組の促進」「必要な場合に合併・事業譲渡等が進められる環境の整備」などを例示し、「人口減少地域等における持続可能な保育機能の確保を進める」としています。
このうち、人口減少に対応した公定価格に関しては、定員と実員の乖離を縮小するための定員区分の見直しなどに取り組むとの考えを明らかにしています。これは、規模の小さな施設において、現行よりきめ細かな定員区分を設定することを想定していると考えられます。
また、地域の実情に応じた多機能化等の取組の促進については、令和6年度補正予算を使って、過疎地域にある保育所等における多機能的な取組について支援するとともに、多機能化に向けた効果や課題を検証するモデル事業を実施することとしており、モデル事業の成果を踏まえた今後の新たな政策が期待されます。
さらに、必要な場合に合併・事業譲渡等が進められる環境の整備については、保育分野等における事業譲渡等に関するローカルルールの防止等を求めた「規制改革実施計画」(令和6年6月21日閣議決定)に基づいて、保育所が合併・事業譲渡等を行う際の手続き等に係るガイドラインを令和7年度中に作成することを明らかにしています。
ただ、規制改革実施計画は、こども家庭庁や厚生労働省に対して規制改革を求めたものであることから、文部科学省の所管である学校法人は今回の合併・事業譲渡等対象に関する環境整備には該当しない可能性があります。
また、人口減少地域における保育機能の確保・強化を考える際には、保育人材の確保が不可欠の要素となります。これに関しては、「保育人材の確保のための総合的な対策」として、働きやすい職場環境づくりや離職者の再就職・職場復帰の促進とともに、新規資格取得と就労の促進も挙げていますが、残念ながら保育士養成校に対する政策的なアプローチが何も示されていません。
正確なデータは明らかになっていませんが、入学志願者が減りつつある保育士養成校は定員減や他の学科等への転換、閉校など厳しい現状に置かれています。とりわけ人口減少の進む地域ほど養成校は窮地に立たされることから、乳幼児人口の減少以上に保育人材の確保困難が、保育機能の維持に深刻な影響を与える可能性があります。こども家庭庁においても、文科省や厚労省とも連携しながら、養成校や保育者養成の在り方に関する新たな政策を講じる必要があります。
ちなみに、これまでの政策をみると、例えば待機児童解消加速化プラン(平成25~29年度)は5年間で約50万人、子育て安心プラン(平成30~令和2年度)は3年間で約32万人、新子育て安心プラン(令和3~6年度)は4年間で約14万人の受け皿整備を目指してきました。けれども、昨年12月に閣議決定された加速化プランでは、受け皿の整備目標を掲げておらず、今回の「保育政策の新たな方向性」では、待機児童対策を中心とした「保育の量の拡大」からの転換を謳うなど、人口減少を前提にした保育の持続可能性をどう図るかに大きな比重が置かれています。