今、なぜウェルビーイングなのか? ~ウェルビーイングの基本的な考え方と乳幼児期の重要性~
研究所メルマガvol.39
2025年2月25日

今回のメールマガジンでは、あちこちで耳にするウェルビーイングについて、令和5年12月22日に閣議決定された「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン(はじめの100か月の育ちビジョン)」の記述を中心に、基本的な考えを整理してみました。
何とはなしに分かったような、分からないような言葉ですが、乳幼児期の子どもの育ちやこれからの保育の在り方を考える上で、避けては通れない概念です。「愛着形成」とも密接に関連しますので、重要なキーワードとして理解を深めていただきたいと思います。
最近、いろいろなところで「ウェルビーイング」という言葉を耳にします。それを表す日本語を思い浮かべると、漠然とした“幸福感”のようなイメージが湧いてきますが、どうもそれだけではないニュアンスがこもっているようにも感じられます。
一昨年4月から施行されたこども基本法では、その目的を示した第1条で「将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指し」と表明しており、ウェルビーイングというカタカナ語こそ使っていませんが、明らかにウェルビーイングを念頭に置いた考えを示しています。
この「ウェルビーイング」を子ども分野で大きく取り上げたのが、こども家庭庁が作成し、令和5年12月22日に閣議決定された「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン(はじめの100か月の育ちビジョン)」です。
はじめの100か月の育ちビジョン(以下、ビジョン)では、ウェルビーイングについて次のように説明しています。
○この「ウェルビーイング」は、身体的・精神的・社会的(バイオサイコソーシャル)に幸せな状態にあることを指す。
○ウェルビーイングは、包括的な幸福として、短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義など生涯にわたる持続的な幸福を含む。
○本ビジョンにおいて、ウェルビーイングは、身体的・精神的・社会的な全ての面を一体的に捉えた観点(バイオサイコソーシャルの観点)での幸福を指す概念であり、換言すれば、こどもの持つ身体と心、周囲を取り巻く身近な環境や社会的状況、より広い環境としての社会を一体的に捉えたものである。
こうした考えに立って、「本ビジョンの目的は、全てのこどもの誕生前から幼児期までの「はじめの100か月」から生涯にわたるウェルビーイング向上を図ることである」と述べ、生涯にわたるウェルビーイング向上にとって乳幼児期が特に重要であることを強調しています。
その際、乳幼児期を単に生まれてから小学校に就学するまでの期間ではなく、「『こどもの誕生前』も含め、育ちを支える基盤的時期として捉える必要がある」と指摘しています。さらに、子どもから見て切れ目のない保障を行うためには、狭い乳幼児期に限定せず、小学校就学前後も連続的に捉える必要があります。
そこで、同ビジョンでは、「妊娠期がおおむね10か月、誕生から小学校就学までがおおむね6年6か月、さらに幼保小接続の重要な時期(5歳児から小学校1年生までの2年間)のうち小学校就学後がおおむね1年であり、これらの重要な時期の合計がおおむね100か月であることに着目し、『こどもの誕生前から幼児期までの育ち』を支える上で見据える時期を『はじめの100か月』としている」と、100か月前後のスパンで子どものウェルビーイングを連続性をもって捉えている旨を説明しています。
また、ウェルビーイングについては、「生涯にわたる全ての時期を通じて高めることが重要であり、こどもとともに育つおとなにとっても重要なものである」として、「こどももおとなも含め、一人一人多様な個人のウェルビーイングの集合として、社会全体のウェルビーイング向上の実現を同時に目指すことが必要である」との考えを示しています。
さらに、同ビジョンでは、全ての人と共有したい当面の羅針盤として、次の5つをビジョンの柱として整理しています。
◇こどもの権利と尊厳を守る
◇「安心と挑戦の循環」を通してこどものウェルビーイングを高める
◇「こどもの誕生前」から切れ目なく育ちを支える
◇保護者・養育者のウェルビーイングと成長の支援・応援をする
◇こどもの育ちを支える環境や社会の厚みを増す
同ビジョンでは、これら5つの柱をベースにしながら、「乳幼児の発達の特性も踏まえ、ウェルビーイング向上において特に重要な『アタッチメント(愛着)』と『遊びと体験』に着目し、『安心と挑戦の循環』という考え方」を整理しています。
一方、文部科学省は、ウェルビーイングの向上について取り上げた第4期教育振興基本計画参考資料の中で、「日本発・日本社会に根差したウェルビーイングの向上」として、次のような考えを示しています。
□自己肯定感や自己実現など「個人が獲得・達成する能力や状態に基づくウェルビーイング」(獲得的要素)と、利他性や協働性、社会貢献意識など「人とのつながり・関係性に基づくウェルビーイング」(協調的要素)を教育を通じて、調和ある形で一体的に向上させていくことが重要である。