保育の質と家庭の学び環境が重要! ~メルウィッシュ元教授に聞く
研究所メルマガvol.13
2023年11月25日
今月のメルマガ配信2
今回のメールマガジンでは、今月上旬に4年ぶりに実施した海外保育事情視察を踏まえて、ロンドンでレクチャーしていただいたオックスフォード大学のメルウィッシュ元教授のお話しの中から、興味深い内容を取り上げて報告します。
そのほか、研究所WEBサイトの「お知らせ&情報」に最近アップしたニュースやトピックスをお知らせします。
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保育の質と家庭の学び環境が重要! ~メルウィッシュ元教授に聞く
11月5日から11日までロンドンとミラノを訪れ、それぞれの地域における先駆的な保育施設を視察するとともに、ロンドンではE・メルウィッシュ・オックスフォード大学元教授に、ミラノではミラノ・ビコッカ大学のS・マントバーニ名誉教授にレクチャーしていただきました。
今回のメルマガでは、メルウィッシュ元教授にレクチャーしていただいたお話しの中から、保育の質の重要性と家庭における学びの環境について取り上げておきます。
〈イギリスにおける保育政策の見直し〉
◯2000 年から 2015 年にかけて保育政策の見直しが行われた
◯具体的には、次にような政策が展開された
・2004 年から3、4歳の保育を無償化(週15時間)
・2004 年以降から新たな乳幼児カリキュラムの導入を検討
(2008年からEYFS=乳幼児基礎段階と呼ばれるナショナル・カリキュラム)
・2004年以降から保育者向けの新しいトレーニングプログラムを導入
・2007年に育児休業が1年に延長
・2013年に2歳からの保育を無償化(最も貧困な家庭40%が対象)
・2017年に週15時間の無償化を週30 時間に拡大(共働き家庭が対象)
・政府は乳幼児に対する責任を認める
・2018 年に家庭学習環境を改善するための政府の取り組みが始まる
◯これらの見直しによって次のような影響が見られた
・小学校入学時の子どもの発達が全国的に改善された
・保育者に対する新しいトレーニングと保育に関する監査指導の改善により、保育の質が向上した
◯保育政策の見直しによる成果は、保育に関する2つの大規模追跡調査によって明らかになった
・一つはEPPSE(Effective Pre-school, Primary & Secondary Education、1997~2012年)
・もう一つはSEED(Study of Early Education & Development、2013年~)
◯結論として(1999年のEPPSE調査と2015年のSEED調査を比較)
・2015年時点の保育のほうが1999年時点の保育より全体的に質が高かった(エカーズ等の評価スケールによる)
・園長や保育者の資格レベルをみると、2015年時点のほうが1999年時点より高かった
・社会的に不利な環境に置かれている子どもたちの場合、保育の質は様々な影響を与える可能性があり、質の高い保育を提供することで子どもの育ちが向上する
・そうでない(社会的に不利な環境に置かれていない)子どもの場合、保育の質が低いと発達にマイナスに影響する
〈家庭学習環境と子どもの育ち〉
◯3つの観点から捉えた幼児期の重要性
・神経科学:乳幼児の脳の発達の重要性
・発達科学:質の高い保育は子どもたちの人生のチャンスを向上させる
・経済学:質の高い保育の提供により長期的には大幅なコスト節約につながる
◯子供の言語環境の重要性
・言語の発達は、認知的・教育的・社会的な発達を支える
・3歳時点で言語が未熟な子どもは、サポートがなければ危険にさらされる
◯家庭での学びの環境(Home Learning Environment)が子ども言語発達に大きく影響する
◯家庭での学びの環境として次のような要素について調査した(これらが影響する)
・子どもへの読み聞かせ
・図書館に連れて行くこと
・絵を塗ったり描いたりすること
・言葉遊び
・数字や図形で遊ぶこと
・歌や詩や童謡を楽しむこと
◯効果的な教育・保育施設では、次の5つが重要であった
・大人(保育者)と子ども言葉による言葉のやりとりの質
・カリキュラムに関する保育者の知識と理解
・幼児がどのように学ぶかについての知識
・子どもの葛藤を解決する大人(保育者)の支援
・家庭での学びをサポートする保護者への援助
◯家庭と教育・保育施設との相互の関わりによって子どもの発達は促進される
・家庭での学びの環境と教育・保育施設での経験は、
・乳幼児期における言語の発達と自己調整(自己制御)の成果は、その後の長期的な成果にとって重要である(その影響は成人期まで続く)
*イギリスでは、乳幼児期の子どもに対する教育・保育をECEC(Early Childhood Education and Care)と読んでいますが、このECECを本稿では「保育」と表現することにします。