保育事業を“機能”から捉え直してみる
施設中心の発想から機能中心の発想へ
2025年6月14日

今回のメールマガジンでは、少子高齢・人口減少時代の施設・法人運営をどう考えればいいのかについて、「機能」という視点から今後の可能性を考えてみました。
量から質への転換が求められる中で、これまでの施設中心の発想では持続可能性を高めることはできません。
では、機能中心の発想をどう理解すればいいのか、改めて「機能」について視点を変えて考察してみました。
今回のメルマガは、時事的な話題ではなく、ものの捉え方や発想の仕方に着目して、これからの保育の在り方を考えてみたいと思います。
どんな制度や仕組みもそうかもしれませんが、ある政策や施策、事業に取り組んでいく草創期や発展期は、それを提供する施設に焦点が当たり、いわば供給主体で物事が進められていきます。しかし、次第に普及・充実していくと、量的拡大の必要性が希薄になり、逆に質的充実のほうに目が向けられていくようになります。言い換えると、質を求める側、つまり需要主体で物事が捉えられていくようになっていきます。
少子化のトレンドが反転するどころか、むしろ加速していく状況の中で、人口減少地域はもちろんのこと、都市部においても子ども人口の濃淡によって定員割れの保育所や閉鎖する小規模保育施設などが現れています。
そうした地域では、保育認定を受けた乳幼児を対象にした保育は、量的に縮小し、収入も減少していきます。それをカバーして、母体である施設や法人の持続可能性を高めるためには、狭い意味での保育機能に加えて、他の機能(例えば放課後児童クラブ、児童発達支援、医療的ケア児、こども食堂など)を発揮することが求められます。いわゆる多機能化です。
現在の保育分野は、機能にお金がつく仕組みがほとんどです。ということは、通常の保育機能が縮小するならば、他の機能で縮小した分を補えばいいということになります。極論すれば、待機児童が多かった時代のように一つの機能で手一杯な状況は終わり、ある機能が縮小したことで逆に他の機能まで拡げることが可能になったと考えることもできます。
しかも、ある機能の目減り分を別の機能で単にカバーするのではなく、複数の機能が相互に補完し合ったり、相乗効果を生むような取り組みを行うことで、より質の高い成果を生み出すことが可能になります。
そのためには、旧来の施設中心の発想をやめて、機能中心の発想に転換することが重要です。供給主体から需要主体への転換を言い換えてもいいでしょう。あるいは、自施設・法人を中心に据えた天動説を捨てて、社会が変化していく中で自分たちも相対的な存在であり、相手との関係性の中でこそ存在できる地動説に宗旨替えする必要があります。
幼保の歴史を振り返ってみても、施設から機能へという流れを理解することができます。
ざっくりと言えば、2015年度から始まった子ども・子育て支援新制度が創設されるまで、例えば保育所の場合、市町村から保育所という施設に保育所運営費が交付されていました。私立幼稚園の場合は、都道府県から私学助成(経常費補助)が幼稚園という施設に交付されていました。
保育所運営費の中には厚生労働省の保育所運営費負担金という“保育所色のお金”が含まれており、幼稚園の経常費補助には文部科学省の経常費助成費補助という“幼稚園色のお金”が含まれていました。
ところが新制度が創設されると、両省の色違いのお金は内閣府子ども・子育て本部(現在のこども家庭庁)の財布に入れられ、保育所色でもない幼稚園色でもない、いわば“子ども色のお金”に一元化されたのです。
しかも、“子ども色のお金”は、教育・保育施設に支給するお金ではなく、1・2・3号認定という保育認定を受けた子ども・子育て家庭に個人給付(施設型給付、地域型保育給付)として支給される仕組みに変わりました。教育・保育施設への財政措置は、保育認定を受けた子どもを受け入れて、教育・保育という現物サービスを提供することと引き換えに給付をもらえる法定代理受領という仕組みに変わったのです。
これは、まさに施設に対するお金ではなく、施設が提供している機能に対するお金に転換したということです。
そう考えると、保育に関する一つの機能が縮小したのであれば、それ以外の他の機能を付加することで、施設・法人全体としてのサービスや事業の規模はカバーできることになります。カバーどころか、うまく多機能化を図っていけば、それ以前の時代より豊かな基盤を形成することもできます。しかも、複数の機能が相互補完し、相乗効果を生めば、単一の機能では果たせない成果を生むことも可能です。
繰り返しになりますが、少子高齢・人口減少時代の施設運営・法人経営は、機能に着目してこれからの事業を考えることであり、機能の質と豊富さ(バリエーション)をどうマネジメントするかが重要になります。