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保育士等の大幅な処遇改善が実現! ~懸念される財源確保のしわ寄せ~

研究所メルマガvol.33

2024年11月25日

 今回のメールマガジンでは、政府の総合経済対策を取り上げました。この中で、保育士や幼稚園教諭等の大幅な処遇改善が盛り込まれ、こども家庭庁の資料によると、今年度補正予算によって人件費の増加率が10%を超えることになりそうです。ただ、これによって次年度以降は通常の財源でまかなうことになるため、他の政策的経費の確保にしわ寄せが行く可能性も否定できません。

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 政府は11月22日、財政支出の規模が22兆円近くに及ぶ「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」を決定し、この中で保育⼠・幼稚園教諭等の大幅な処遇改善が盛り込まれることになりました。

 これを受けて、こども家庭庁が同日公表した資料によると、保育士等の処遇の抜本的な改善として、人件費の増額率が過去最大の10.7%になることを明らかにしています。これは、人事院勧告に準拠した改善(基本分単価等の引き上げ)となるため、今年4月に遡って公定価格の引き上げ等が行われることになりそうです。

 その裏付けとなる補正予算案については、12月上旬にも国会に提出され、年内の成立を目指すことになります。処遇改善の予算規模はまだ分かりませんが、今年度補正予算の規模は13兆9000億円程度とも言われており、処遇改善にも相当程度の財源が必要になると見られます。

 ちなみに、令和5年度の保育士等の処遇改善については、人事院勧告を踏まえた対応として保育士等の処遇が5.2%引き上げられ、そのための「保育士等の処遇改善(特別会計)」として620億円が計上されました。そう考えると、令和6年度の処遇改善については1200億円を超える財源が必要になるのではないかと考えられます。

 今回は補正予算による処遇改善となりますが、令和7年度以降は通常の予算に反映する必要があります。1000億円を超える予算が毎年度かかるということは、かなり大きな財政負担となります。懸念されるのは、それによって他の政策経費に財政圧縮のしわ寄せがいくことです。

 例えば、こども誰でも通園制度の利用上限時間(月10時間)を大幅に引き上げようとすれば、1000億円単位の財源が必要になると見込まれます。そのための財源を処遇改善の財源とは別に確保することができるのかどうか。そうした財政的な制約が、こども誰でも通園制度の制度設計や運用に及ぶ可能性も否定できません。

 また、10%を超える処遇改善というのは、同庁の資料でも表現しているように、「現状からの『大脱却』を図る」ものであり、相当な給与の引き上げになることは確かです。ただ、人事院勧告というのは、民間企業の従業員給与との水準を均衡させること(民間準拠)が基本であり、民間給与との格差がなくなるわけではありません。保育士や幼稚園教諭の給与は全産業平均と比べて5万円ほど低いのが実情ですから、今回の給与改善によって賃金格差がかなり縮小することにはなりますが、民間企業等との給与の差が全くなくなるということではありません。

 一方、公定価格の人件費の取り扱いについては、今年度補正予算に反映した上で、国家公務員給与の改定に準じて、令和6年4月まで遡って公定価格の引上げ等が行われることになりますが、その場合、国だけでなく地方自治体においても所要の財政措置が必要になります(負担割合は国1/2、都道府県1/4、市町村1/4)。

 令和5年度は、それ相当の金額の財政措置が必要であったことから、自治体によって対応に遅れが出たり、4月に遡った給付の支給方法に差が生じたりといった状況が見られました。こうした自治体間の温度差を招かず、給付事務の円滑な実施が図られるよう、今から十分な対応策を準備しておく必要もありそうです。

 このほか、処遇改善以外で経済対策に盛り込まれた重点事項のうち、保育関連事項は次の通りです。

・保育士等の処遇改善

・保育士修学資金貸付等事業

・保育DX等による現場の負担軽減

・過疎地域における保育機能確保・強化のためのモデル事業

・保育等の提供体制の確保(保育所等の新設、修繕)

・「常勤保育士」の範囲拡大を通じた保育人材の確保

・保育所等の防災・減災対策の強化・加速等

・幼児教育の質の向上のための環境整備

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