保育料の無償化がもたらす光と影 ~無償化に向けた自治体独自の動きが加速!~
研究所メルマガvol.36
2025年1月12日

今回のメールマガジンでは、第1子や第2子以降の保育料無償化を目指す自治体の動きを取り上げました。保護者負担の軽減につながる無償化は結構なことですが、一部の自治体だけが実施すれば、周辺自治体にマイナスの影響が及ぶ可能性もあります。自治体の独自性と利用者に対する公平性との狭間で、無償化の動きをどのように捉えたらいいのか考えてみました。
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東京都が今年9月から認可保育所等を利用する第1子の保育料を無償化する方針を打ち出し、東京周辺の自治体は危機感を募らせています。都は既に令和5年10月から第2子以降の無償化を実施しており、無償化を加速させる意向です。
無償化に向けた動きは東京に限ったことではなく、他の自治体でも第2子以降の無償化を実施するところが増えてきています。少子化対策の名の下に無償化を競い合うような傾向さえ感じられます。
東京のように都道府県レベルで無償化を実施するケースは珍しいでしょうが、主要都市をみると、京都市では今年4月から第2子以降の保育料無償化(所得制限なし、同時入所要件なし)が始まります。大阪市でも、昨年9月から第2子以降の無償化が実施されており、さらなる無償化に向けてロードマップを示しています。
確かに保育料の無償化は、子育て家庭にとって大きな経済的負担の軽減になり、子育て支援の機運を高めることにもつながります。しかし、諸手を挙げて喜べるかというと、残念ながらそうとは言い切れません。
なぜならば、国の制度を超えた無償化は、自治体の独自財源で賄わなければならず、一定の財源を担保できるかどうか、首長や議会が無償化という少子化対策に強い意欲があるかどうか、といった要素によって大きく左右されるからです。
独自の無償化を実施できた自治体は、子育て世帯の流入(あるいは流出阻止)に一定の成果が得られるかもしれません。しかし、周辺自治体からみると、子育て世帯の流出につながり、人口減少や少子化の加速に拍車がかかる可能性もあります。
ミクロにみれば対策に成功する自治体がある一方、マクロにみれば子育て世帯や人口の奪い合いが起こるだけで、トレードオフの関係にとどまり、広域的に人口が増えることにはなりません。言い換えると、自治体間の勝者と敗者が生まれるだけで、我が国全体の少子化対策にとって必ずしも有効な施策とはなりません。
そのしわ寄せは、保育園や認定こども園にも及びます。人口の自然減に加えて、自治体間の人口の奪い合いによる社会減まで加速すれば、想定以上の園児減に見舞われるかもしれません。何よりも子育て家庭にとって、住んでいる自治体によって保育料の負担が違うという不公平感を助長することになります。
無償化の動きは、保育料に限ったことではありません。世田谷区や港区では、給食費も実質的に無償化されています。医療費の無償化を進める自治体も数多くあります。ここでも自治体による差が生じています。
令和8年度からの本格実施を目指す「こども誰でも通園制度」についても、同じことが言えるかもしれません。国で定める利用上限時間が月10時間であったとしても、自治体によって40時間や60時間など上限を引き上げるところが出てくるでしょうし、利用者負担についても独自に軽減したり、無償化したりする可能性があります。
こうした自治体による違いを「格差」と捉えるのか、「個性」「独自性」と捉えるのか、非常にデリケートで難しい問題ですが、必要以上に差を生じることは決して好ましくありません。少子化対策や子ども・子育て支援のナショナル・ミニマムをどこに求めるのか、自治体の「独自性」をどこまで認めるのか、人口減少地域を含む広域的な対策を講じなくていいのか。
保育料をはじめとした自治体独自の無償化の動きによって、改めてこうした課題が浮き彫りになっているように感じます。
余談ながら、第1子や第2子以降の無償化は、基本的には0~2歳児が利用する認可保育所や認定こども園(2号・3号)、地域型保育事業所が対象になると考えられます。無償化されれば利用率は上がると予想されますが、そうなると子どもを3歳から受け入れている幼稚園はさらに厳しい状況に置かれることは間違いありません。
幼保小の架け橋プログラムに象徴されるように、保育所も含めた「幼児教育」政策が進んでいく中で、「幼稚園」に関する政策はどうなっていくのか。こども家庭庁と文部科学省の二元体制の狭間で、幼稚園政策の行方が懸念されます。