保育機能の維持を図る最大のカギは保育人材 ~養成校・資格や免許・保育人材という三題噺~
研究所メルマガvol.34
2024年12月16日
今回のメールマガジンでは、人口減少地域における保育機能の維持を取り上げました。この中で、保育士養成校の定員割れや閉校などが進む可能性に触れながら、子どもが減少すること以上に保育人材を確保できなことが、保育機能の維持に関する大きな障碍になり得ることを取り上げています。
このほか、研究所WEBサイトの「お知らせ&情報」に最近アップしたニュースやトピックスをお知らせします。
人口減少地域における保育機能の維持が、これからの大きな課題になっています。その際、まず頭に浮かぶのは、少子化によって子どもの数が著しく減っていくという問題だと思います。なぜなら、子どもがいなければ保育機能は必要としないからです。
しかし、その前に保育機能の維持を極めて困難にする問題があります。それは、保育人材の確保や定着です。先般講演に行った北海道の某市では、人口が2万人を下回り、出生数は100人前後ということでした。そこに私立幼稚園が4か所、公立保育所が1か所、へき地保育所が3か所、ほかに認可外保育施設もいくつかあるということでしたから、明らかに供給過剰です。
理屈の上では、希望する教育・保育施設には、誰でも入れるように思われます。それにもかかわらず、希望する園への入園を断られるケースが生じています。その原因が人材難です。某園では、中堅職員が止めた後、新たな人材を確保することができず、1クラス減らさざるを得なくなったそうです。その結果、入園を希望する子どもはいても、受け入れるための人的体制が整わないため、希望する園の保育を受けられない子どもがいるのです。
子どもがゼロになってしまえば、保育機能の維持はできませんし、そもそも保育機能を必要とされません。けれども、子どもは一定数いるのに、それを受け入れる施設側が必要な保育者を確保できず、入園を制限せざるを得ないケースが現実に起こっており、それが保育機能の維持に暗い影を落としています。
筆者は最近、次のようなことを懸念しています。
○少子化の波は、乳幼児のみならず18歳人口の持続的な減少を招いており、大学・短大の進学率は上がっても、実際の入学者数は既に減り始めている。
○この傾向は、いわゆる保育士養成校においてより顕著で、構造的な保育人材難につながっていく可能性が高い。
○その中でも、地方の養成校ほど大幅な定員割れに見舞われ、募集停止や閉校、他学部への転換などによって、保育者の養成機能が失われていく。
○他方、人口減少地域や地方ほど若い女性の人口流出が多く、養成校がなくなれば(あるいは減っていけば)地元の保育人材が枯渇する(養成校のある他県や他地域からわざわざやって来る保育者はいない)。
○認定こども園や保育所、幼稚園など公的な教育・保育には、保育士資格や幼稚園教諭免許が必要になるため、養成校がなくなっていけば直ちに保育人材難に陥る。
実は、全国の養成校がどのような状況にあるのか、こども家庭庁も厚生労働省も文部科学省もデータを公表していない(データを持っていない)ため、正確なことは分かりません。さらに、資格・免許を取得できる大学・短大も、教育学部・社会福祉学部・家政学部にある保育学科・児童学科・幼児教育学科など多様なため(一部の人文学部でも「指定保育士養成施設」に指定されている場合があるため)、実態を把握することを困難にしています。
とはいえ、各地に出向いたとき、最近は「○○養成校が間もなく閉校するらしい」「○○養成校は入学者が減って経営が大変らしい」といった声を耳にします。
正確なデータではないかもしれませんが、大学・短大・専門学校の進学情報を提供しているWEBサイトで、保育士を目指せる大学・短大一覧から保育士養成校を調べてみたところ、山形県が1校、秋田県が2校、福井県が2校、和歌山県が2校、鳥取県が2校、沖縄県が1校、高知県に至っては0校となっていました。これらの県で養成校が万が一にもなくなってしまえば、乳幼児人口の減少どころの問題ではなく、保育機能を維持することが困難になってしまいます。
そこから浮かび上がってくる問題や課題として、一つは政策的に養成校の存続をどのように図ることができるのか、ということがあります。これに関しては、保育者の職の魅力(処遇や職場環境、保育職そのものの魅力など)の問題、高校の進路指導の問題、小中高校生や保護者に対するイメージの問題といった課題が考えられます。
そして、もう一つは、保育士資格や幼稚園教諭免許という資格・免許をどこまで厳格に維持するのかという問題があります。そこに配置基準の問題も絡んできます。資格・免許を厳格に求める限り、養成校の定員削減や閉校は保育人材の逼迫に直結します。かといって、子育て支援員研修のレベルで3~5歳児の教育・保育を担うことが可能かどうか。
いずれにしても、少子化の加速と、それに伴う乳幼児人口の減少、それ以上に深刻な保育人材の確保、これらの問題状況が投げかける保育機能の維持という課題をどう克服するのか、与えられた時間はそれほど長くない中で、何らかの答えや手立てを見出さなければなりません。