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保育者養成校の学生募集停止が相次ぐ! ~保育人材確保の新たなボトルネックに~

研究所メルマガvol.38

2025年2月12日

 今回のメールマガジンでは、保育人材の確保に関して、大きな影響のある保育者養成校の置かれた厳しい現状にスポットをあててみました。保育者の養成に重要な役割を果たしてきた短大、専門学校が、相次いで学生の募集停止に追い込まれています。そうした問題状況を考えると、新たな人材確保対策の在り方が問われそうです。

 このほか、研究所WEBサイトの「お知らせ&情報」に最近アップしたニュースやトピックスをお知らせします。

 ここ数年で待機児童が大幅に減ったにもかかわらず、保育人材の慢性的な不足が解消される気配がありません。それどころか、さらなる人材不足に陥りそうな状況が見られるようになってきました。

 それを裏付けるように、令和6年1月の保育士の有効求人倍率は3.54倍で、6年前の3.40倍を上回っており、全職種平均の1.35倍に比べ非常に高い水準となっています。

 これまで人材難の大きな要因は、保育者の処遇の低さや労働環境の低さにあったと言われてきました。しかし近年、処遇や職員配置の改善、職場環境の見直しなどが進み、以前ほど悪い状況ではありません。

 特に、処遇改善については、令和24年度をベースにすると、令和6年度は補正予算により約34%(11.3万円)の改善が図られています。これに、該当者は処遇改善等加算Ⅱの手当等(最大4万円)が加わります。キャリアアップまだ十分とは言えないまでも、相当な引き上げが行われていることは確かです。

 職員配置の改善も、4・5歳児の配置改善(30:1→25:1)や3歳児の改善(20:1→15:1)が基準ベースで見直され、1歳児については6:1から5:1への改善が基準外の加算として行われることになっています。

 労働環境の見直し関しても、半ば慣習的な残業や持ち帰り、未消化の有給休暇など、旧来の悪しき体質は少しずつ改善されてきているように思われます。今後は、ICTの導入が進むとともに、業務の省力化や効率化が図られ、魅力ある職場づくりに向けての環境整備が進んでいくと期待されます。

 それでも人材難に陥っているのは何故なのでしょうか。その大きな要因の一つが、保育士や幼稚園教諭を養成する大学、短大、専門学校の苦境です。特に、短大や専門学校は入学志願者の減少、大幅な入学定員割れによって、学生の募集停止や閉鎖に追い込まれるところが増えつつあります。

 子ども家庭庁が公表している指定保育士養成施設一覧によると、令和6年4月1日現在で募集停止となっている養成校は30校に及びます。令和7年度、8年度に募集停止に踏み切る養成校は、分かっているだけでも札幌国際大学短大(北海道)、星美学園短期大学(東京)、町田福祉保育専門学校(東京)、岐阜聖徳学園大学短大(岐阜)、神戸女子短大(兵庫)、九州龍谷短期大学(佐賀)、鹿児島純心女子短大(鹿児島)など20校近くに及び、さらに増えることが予想されます。

 従来の人材確保の中心は、「いれる(採用)」「つなぐ(定着)」「もどす(再雇用)」でしたが、これからはそれ以前の段階である保育者養成校の斜陽が深刻化しそうです。つまり、保育人材確保のボトルネックが、処遇や配置、職場環境などから保育者養成の段階に移ってきているのではないかと考えられます。

 これに対してこども家庭庁では、保育士修学資金貸付や保育士試験の年2回実施拡大、保育士養成施設に対する就職等促進支援(その中で中高校生等に対する保育体験講座等の中高と連携した取り組みを実施)などに取り組んでいます。けれども、これだけでは決して有効な手立てとは言えず、十分な成果が上がることは期待できそうにありません。

 何よりも、こうした養成校の実態、実情が詳細に把握できていないことに問題があります。上述した指定保育士養成施設一覧は、大学、短大、専門学校の名称や所在地、経営主体、入学定員、学生定員、指定を受けた年月日などが載っているだけで、入学志願倍率や合格率、定員充足率など重要なデータが分かりません。もちろん、それらの年次推移も不明です。

 日本私立学校振興・共済事業団が公表している資料では、志願倍率や合格率、充足率などは分かりますが、教育系や家政系、社会系といった学科系統別までしか示されておらず、保育者養成校の状況は明らかにされていません。

 少子化の加速による18歳人口のさらなる減少に加えて、保育者という職のイメージが低下していることや、高校の進路指導においても芳しくない指導を受ける実情、保護者の消極的な理解などを考え合わせると、今後ますます養成校は厳しい状況に置かれる可能性が高いと思われます。特に、もともと養成校の少ない地方自治体においては、養成校の灯が消えることは人材確保にとって致命的です。

 こうした問題状況を克服するためには、まず養成校の置かれている状況や実態を正確に把握し、それを手掛かりに有効な政策を打ち出し、速やかに実行することが求められます。このままでは、養成段階のボトルネックが幼稚園、保育所、認定こども園などの人材確保に大きなダメージを与えかねないように思います。

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