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公立施設は“鉱山のカナリア”か? それとも… ~公立の統廃合問題を考える~

研究所メルマガvol.28

2024年9月6日

 今回のメールマガジンでは、「公立幼稚園・保育所の統廃合問題」について考察してみました。少子化の加速や保育ニーズの変化などもあって、公立施設の統廃合や休廃園を検討する自治体が増えています。そこで、この問題について、私立への影響も含めて考えてみました。

 このほか、研究所WEBサイトの「お知らせ&情報」に最近アップしたニュースやトピックスをお知らせします。

 公立幼稚園・保育所の休廃園や統廃合が進む中、神戸市は9月4日、「今後の幼児教育・保育における市立幼稚園について」と題する方針を打ち出しました。

 少子化の進行や長時間の保育ニーズの増加などによって、幼稚園を希望する子育て家庭が減り続けていることから、市立幼稚園の小規模化に応じた再編を進めることにしたものです。具体的には、今後も継続的に20人に満たないと見込まれる園(13園)を再編の対象とし、今年度末から令和10年度末までの間に順次閉園する考えです。

 神戸市と言えば、かつて我が国でも古い歴史を誇る公立幼稚園大国でしたが、社会状況の変化の中で園児減少に歯止めをかけることができず、「集団保育の確保に向けた再編」や「幼稚園就園ニーズを踏まえた再編」に取り組むことになりました。

 それを可能にした背景の一つには、神戸市の場合、認定こども園化がかなり進んでおり、幼稚園を閉園しても認定こども園による教育利用が担保されるということがあります。方針の中で同市は、「公・私立の教育・保育施設一体での幼児教育・保育をさらに推進する」との姿勢も示しています。

 また、残った市立幼稚園については、拠点園として①全市の教育・保育の質向上に寄与する取り組み(公・私立の教育・保育施設に対する幼児教育の研修等の充実)、②公・私立の教育・保育施設に対する特別支援教育の充実、③市立幼稚園を核とした幼保小接続、といった機能強化を図ることにしています。

 今回の神戸市にとどまらず、多くの自治体で公立幼稚園や公立保育所の統廃合が検討されています。その大きな要因は、少子化の進行による乳幼児人口の減少です。乳幼児人口の減少によって教育・保育の供給過剰が進み、定員割れが拡大しているからです。

 定員割れによる経営難は、公立施設に限らず私立の施設でも起こりうることですが、なぜ公立が突出して多いのでしょうか。まずデータから見てみましょう。

 公立保育所は1980年代半ばから減少に転じ、その後も減り続けています。私立保育所は1989年にいったん減少したものの、翌年以降は再び増加に転じ、現在まで増え続けています。2007年まで公立保育所のほうが私立より多かったのですが、2008年に公私の数が逆転し、2022年時点では公立が6481か所、私立が1万6045か所と2倍以上の開きがあります。

 また、幼稚園については、公立は1985年がピーク、私立は1984年がピークで、それ以降はともに減少に転じ、現時点で公立はピーク時の半分以下、私立はピーク時の3分の2にまで落ち込んでいます。

 私立に比べて公立の減少が多いのは、①自治体にとって直営の公立のほうが統廃合しやすい、②公立のほうが私立より高コストで行財政改革のターゲットになりやすい、③公立のほうが人口減少地域に多い、④延長保育や預かり保育など公立のほうが私立より多様なサービスという点で見劣りする、⑤集団保育が困難になるほど園児の規模が縮小した、といったことが要因だと考えられます。

 保育所の場合は、これに加えて、民営化が進んだことで公立が減少し、私立が増えたことも大きな要因です。幼稚園の場合は、女性就業率の上昇に伴う保育ニーズの増加、言い換えると幼稚園ニーズの減少によって、公私立とも著しい園児減少に見舞われたと考えられます。その影響が、公立により顕著に見られたと言えます。

 いずれにしても、公立施設のほうが園児減少の程度が大きく、これからさらに休廃園や統廃合が進むことが予想されます。とはいえ、私立施設は心配ないということには全くなりません。公立のほうが先にダメージを受けているというだけであって、少子化が加速していけば私立といえども法人合併やM&A、廃園に陥るところが増えるのは避けられません。

 そう考えれば、公立が見せてくれる姿は、いわば“鉱山のカナリア”と言えるかもしれません。炭鉱の中に連れて行ったカナリアの鳴き声が止んだり、衰弱して死んでいくようであれば、有毒ガスが発生して(あるいは酸素が欠乏して)危険であるというシグナルです。

 公立施設をカナリアに喩えるのは失礼かもしれませんが、差し迫る危機に対する抵抗力(マネジメント力)が弱いだけで、公立施設が辿る道筋は私立施設にとっても他人事ではありません。公立の休廃園や統廃合によって一息つけることがあったとしても、公立というカナリアのいなくなった地域では、次に私立が危機に直面することになります。そもそも公立がない、または非常に少ない地域では、私立同士の競合に晒され、いきなり厳しい状況に晒されることになります。

 もう一つの問題は、公立の店仕舞いの在り方が問われるということです。これは、私立にとっても大きな問題です。単純に公立施設を統廃合・休廃園して施設数を減らす方法から、数を減らしつつ残った施設を機能強化し拠点化する方法、統廃合によって施設を減らしつつ認定こども園化を図る方法(その場合、公立のまま、公設民営、民間移管といったバリエーションがある)まで、様々な方法があり得ます。

 公立の店仕舞いの在り方によって、私立にとっては貴重なチャンスになる場合もあれば、逆に大きなダメージを受ける場合もあります。また、既に公立のない人口減少地域では、真正面から少子化と向き合い、持続可能性をかけたチャレンジが求められるところもあるでしょう。そう考えると、公立施設の有無や多寡、統廃合の動向などに敏感に目を向けておくことが大切です。

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