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再び「こども誰でも通園制度」を考えるⅡ ~誰のための何のための制度なのか?~

研究所メルマガvol.25

2024年7月22日

 今回のメールマガジンでは、「こども誰でも通園制度」(PartⅡ)について取り上げました。今年度から全国115市町村で試行的事業が始まりましたが、期待の大きさに反して実際の取組状況は必ずしも上々とは言えないようです。そこで、この制度の運用上の課題について、改めて考えてみました。

 2年後の本格実施を見据えて、「こども誰でも通園制度」の試行的事業が全国115市区町村で始まっています。この制度については大きな期待がある一方で、不安や戸惑いも少なくありません。そのせいか、試行的事業も予算上は150自治体を想定していたにもかかわらず、4分の3程度しか手が挙がりませんでした。中には試行的事業に手を挙げて、その後で辞退した自治体もあったようです。

 受け入れ側の保育施設・事業者にとっては人材不足や保育スペースの問題などから受入れ体制を整えられなかったり、費用(1人当たり補助額850円、利用者負担300円)の安さなどもあって、二の足を踏むところが意外に多かったようです。一方で、子育て家庭の利用者にとっては、おおむね好評のようですが、買い物や通院、自分の時間が持てることといった保護者のニーズによる利用希望が大半で、子どもの健やかな育ちという本来の視点が希薄であるのが現状です。

 そこで、今回のメルマガでは、「こども誰でも通園制度」の本格実施に向けた課題を改めて考えてみたいと思います。

 検討する視点は、「制度の目的」「運用上の課題」「保育の再定義」の3つです。この3つについては、いずれ会員ページでも詳しく取り上げますが、今回は「運用上の課題」について解説しておきます。

〈運用上の課題〉

 今年度から始まった試行的事業について、こども家庭庁が提示した資料では、次のような内容とイメージを示しています。

◯こども1人につき月一定時間までの利用可能枠の中で、時間単位等で柔軟に通園が可能な仕組みとすることを想定。

◯在宅で子育てしている場合でも、専門職がいる場で、同世代とかかわりながら成長できる機会を保障できる。

◯試行的事業の補助基準上の上限を「月10時間」とする。

◯イメージとしては、1日中利用するとすれば月1回、1日2時間利用するとすれば毎週利用できる、というイメージとなる。

◯定期利用(利用する曜日等を固定し定期的に利用)、自由利用(固定せず柔軟に利用)は、こどもや地域の状況を踏まえ、いずれかを原則とするのではなく、いずれかを選択したり、組み合わせて利用するなど柔軟な利用方法が可能となる仕組みが必要。

 「月10時間」上限については、本格実施を見据えた場合、「都市部を含め全国の自治体において提供体制を確保する必要がある」との観点から、利用時間を抑制せざるを得ないとの考えを示しています。利用時間を引き上げれば、それだけ受け入れられる未就園児の数に制約が生じるからです。また、たとえ10時間であっても、「一時預かりの整備状況は月1~2時間程度に相当し、試行的事業は、一時預かりよりも相当程度多く利用できる」として、「十分に効果が期待される」としています。

 一方、「月10時間」に関しては、多くの保育関係者から短すぎるとの指摘がなされています。そうした声を踏まえて、本格実施の際には利用時間の上限がもう少し引き上げられる可能性もありますが、大幅に引き上げられることは難しそうです。

 「月10時間」という時間の短さに加えて、丸一日利用すれば月1回、1回2時間で月5回、1回5時間で月2回、1回3時間で月3回程度という「時間単位等で柔軟に通園が可能な仕組み」になっています。これについて同庁の資料によると、「定期利用(利用する曜日等を固定し定期的に利用)、自由利用(固定せず柔軟に利用)は、こどもや地域の状況を踏まえ、いずれかを原則とするのではなく、いずれかを選択したり、組み合わせて利用するなど柔軟な利用方法が可能となる仕組みが必要」との考えを示しています。

 「月10時間」上限ということは、それより短い利用もあり得るわけですが、たとえ10時間であっても、果たしてそれで子どもの育ちの保障ができるのかどうか疑問です。まして、1回当たりの利用時間がバラバラになった場合、保育現場としては職員の配置や子どもの安全管理など受け入れ体制を整えることが難しく、組織的・計画的に子どもを保育することが困難になると考えられます。

 さらに、試行的事業の費用面をみると、こども1人1時間当たり850円を基本とし、保護者負担は300円程度とされており、月10時間利用した場合は1人につき1万1500円の収入ということになります。利用児童がどんなに少なくても最低2人は職員を配置しなければならないでしょうから、人件費から逆算すると1か月当たり延べ40、50人程度の利用がなければ経営的には厳しいと考えられます。

 このほか、制度の円滑な利用や、コスト・運用の効率化を図るため、「こども誰でも通園制度総合システム」を整備し、利用者からの予約管理、事業者や市町村のデータ管理、事業者から市町村への請求書発行という3つの機能を実現できるシステムを構築することとしています。その運用開始は本格実施の1年前である令和7年4月からを予定しているようですが、この制度を運用する全ての事業者や地方自治体が円滑にシステムに対応できるのかどうか、その点についても不安は拭えません。

 いずれにしても、現時点では、制度の運用に多くの不安要素や不確実性があることから、本格実施までにどこまで改善が図られるか、試行的事業の実施状況を踏まえた本格実施の在り方の検討が注目されます。

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