再び「こども誰でも通園制度」を考える ~誰のための何のための制度なのか?~
研究所メルマガvol.24
2024年7月5日
今回のメールマガジンでは、「こども誰でも通園制度」につ いて取り上げました。今年度から全国115市町村で試行的事業が始まりましたが、期待の大きさに反して実際の取組状況は必ずしも上々とは言えないようです。そこで、この制度のあるべき姿について、改めて考えてみました。
2年後の本格実施を見据えて、「こども誰でも通園制度」の試行的事業が全国115市区町村で始まっています。この制度については、大きな期待がある一方で、不安や戸惑いも少なくありません。そのせいか、試行的事業も予算上は150自治体を想定していたにもかかわらず、4分の3程度しか手が挙がりませんでした。中には試行的事業に手を挙げて、その後で辞退した自治体もあったようです。
受け入れ側の保育施設・事業者にとっては人材不足や保育スペースの問題などから受入れ体制を整えられなかったり、費用(1人当たり補助額850円、利用者負担300円)の安さなどもあって、二の足を踏むところが意外に多かったようです。一方で、子育て家庭の利用者にとっては、おおむね好評のようですが、買い物や通院、自分の時間が持てることといった保護者のニーズによる利用希望が大半で、子どもの健やかな育ちという本来の視点が希薄であるのが現状です。
そこで、今回のメルマガでは、「こども誰でも通園制度」の本格実施に向けた課題を改めて考えてみたいと思います。
検討する視点は、「制度の目的」「運用上の課題」「保育の再定義」の3つです。この3つについては、いずれ会員ページでも詳しく取り上げますが、今回は「制度の目的」について解説しておきます。
〈制度の目的〉
「こども誰でも通園制度(仮称)の本格実施を見据えた試行的事業実施の在り方に関する検討会」の中間取りまとめ(令和5年12月)では、「一時預かり事業のように、①家庭において保育を受けることが一時的に困難となった乳児又は幼児、②子育てに係る保護者の負担を軽減するため、保育所等において一時的に預かることが望ましいと思われる乳児又は幼児を対象に、一時的に預かり、必要な保護を行う、いわば『保護者の立場からの必要性』に対応するものとは異なり、こどもを中心に考え、こどもの成長の観点から、『全てのこどもの育ちを応援し、こどもの良質な成育環境を整備する』ことを目的としている」と、その意義を説いています。
また、制度創設のための児童福祉法改正が先般、国会で成立しましたが、同法では「乳児等通園支援事業」として、「満3歳未満のものに適切な遊び及び生活の場を与えるとともに、当該乳児又は幼児及びその保護者の心身の状況及び養育環境を把握するための当該保護者との面談並びに当該保護者に対する子育てについての情報の提供、助言その他の援助を行う事業」と規定しています。
つまり、この制度は、第一義的に子どもの育ちのための仕組みであり、そのための養育環境を整える一環として保護者に対する援助や支援も行うというものです。冠婚葬祭や通院など緊急一時的な要件や、育児疲れや子育ての不安・負担を軽減するためのリフレッシュ利用などを目的とした一時預かり事業とは、その目的も、使い方も、実施内容も異なることを理解しておくことが重要です。
しかし、残念ながら多くの自治体では、子ども主体の制度というよりも、保護者主体の制度として受け止められ、一時預かりの延長線上にある仕組み、もしくは一時預かりを補完する仕組みのように捉えられている節があります。こうした一時預かり事業との間違った混同を解消しなければ、こども誰でも通園制度は本来の趣旨に沿った成果を上げることができなくなります。
そうならないために、改めて一時預かり事業とこども誰でも通園制度の法令上の違いを確認しておきたいと思います。
児童福祉法施行規則第1条の8において、一時預かり事業は「保育所、幼稚園、認定こども園その他の場所において、一時的に預かり、必要な保護を行うものとする」と規定され、その対象は①家庭において保育を受けることが一時的に困難となつた乳幼児、②子育てに係る保護者の負担を軽減するため、保育所等において一時的に預かることが望ましいと認められる乳幼児が挙げられています。
これに対して、こども誰でも通園制度のほうは、上述したように児童福祉法において、「満3歳未満のものに適切な遊び及び生活の場を与える」ための「乳児等通園支援事業」と規定されています。必要な保護を行う一時預かりと違って、こども誰でも通園制度は適切な遊びや生活の場を与えるものであり、その目指すところが大きく異なっていることを理解しておく必要があります。
上述した中間取りまとめでは、年齢ごとの関わり方の特徴と留意点にも言及しています。この考え方は、一時預かりには全くないものです。さらに、中間取りまとめは、「常に『こどもまんなか』の意識を持ち、こどもを中心に考え、こどもの成長の観点から、全てのこどもの育ちを応援し、こどもの良質な成育環境を整備するという視点から、検討を深めていくべきである」と強調しています。
繰り返しになりますが、こども誰でも通園制度と現行の一時預かり事業の本質的な違いを改めて確認した上で、この新しい制度が「こどもまんなか」の一つのシンボルとして根付くことを強く願いたいと思います。