国の人口減少対策は本当に成果が上がるのか?
~保育が貢献できる質的な対策を軽視~
2025年4月15日

今回のメールマガジンでは、政府の人口減少対策、少子化対策について、雑感的に考えてみました。
政府の少子化対策は、結果として失敗し続けてきましたが、その大きな要因の一つは量的な対策にこだわるあまり、質的な対策を疎かにしてきたことにあると考えます。その量的な対策でさえ、少子化の根本的な原因に焦点を当てることを避けてきたため、期待される成果を上げることができませんでした。
少子化という数にだけこだわることなく、少子化の質、つまり乳幼児期からの子どもの育ちの保障も重要な少子化対策だという認識で対応する必要があると思います。
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少子化の加速により少子高齢・人口減少が深刻さを増しています。厚生労働省が公表した人口動態統計速報(2024年12月分、日本在住の外国人等も含む)によると、2024年1年間の出生数が前年より3万8000人近く少ない約72万人となり、その一方で昨年1年間の死亡数は、前年に比べて2万8000人あまり多い約162万人となりました。その結果、出生数と死亡数の差(自然増減)は約90万人と過去最大の減少となっています。
この人口減少は、出生数を死亡数が上回っていることによって起こるもので、高齢化の進行による死亡数の上昇は避けようがありません。言い換えると、人口減少を食い止めるには、出生数を増やすしかありません。しかし、その出生数が、1995年度から取り組まれたエンゼルプラン以降、様々な少子化対策を講じているにもかかわらず、一向に好転する兆しが見えません。
政府が一昨年12月に閣議決定したこども未来戦略は、2030年までが少子化トレンドを反転させるラストチャンスだと力説していますが、少子化トレンドが反転するとは思えません。来年(2026年)は60年ぶりに丙午の年を迎えるだけに、むしろ少子化がさらに加速する可能性さえあるのが現実です。
結論から言うと、実現可能性が極めて低いにもかかわらずラストチャンスだと繰り返すことは、イソップの「オオカミがきた」ではありませんが、やがて誰も信用しなくなってしまい、本当に必要なこと、大切なことを言っても空事と思われてしまいかねません。
出生数を増加に転じさせることは確かに重要なことですが、それが限りなく不可能に近いのであれば(これまで30年にわたって少子化対策の成果が現れなかったことを考えれば)、異なる発想に基づいた別の手立てを講じることが必要ではないでしょうか。
少子化対策は、手段であって目的ではありません。少子高齢・人口減少社会がもたらすリスク、例えば社会保障制度の持続可能性が危うくなり、国民生活が危機に瀕するようなリスクを避けるための方策は、出生数を増やすことだけが唯一の考えではありません。
大事なことは、未来の日本を支え、地域社会を担う人材(マンパワー)がしっかり存在することです。それは、単に量的な面だけでなく質的な面で捉える必要があります。極論ですが、たとえ出生数が好転したとしても、生まれ育っていく子どもたちが不登校になったり、問題行動を起こしたりし、大人になったら引きこもっているようでは、人の頭数はいても力強い支え手や担い手にはなり得ません。逆に、社会経済を弱体化させることになるかもしれません。
そうではなくて、たとえ出生数が増加に転じなかったとしても、子どもたち一人ひとりが健やかに、心豊かに、たくましく育っていけば、一人ひとりの力強いマンパワーによって国や地域社会を十分に支えることが可能になるのではないでしょうか。少なくとも筆者はそう考えます。
つまり、少子化対策には、量的な対策と質的な対策の2つがあるということです。これまでの少子化対策は、ほとんど量的な対策に終始してきました。しかも、非正規雇用に象徴される低所得や不安定な働き方がもたらした未婚化・非婚化の問題に大きく踏み込むこともせず、量的な対策さえ焦点がずれていたように思われます。
一方で、未来を支える人材育成という質的な対策には、これまでほとんど力を注がず、現在もそうした視点が希薄なままです。教育・保育や子育て支援に関してやっていることと言えば、無償化や児童手当のような現金給付が主で、重要な少子化対策として未来の支え手や担い手である人を育てるという政策は講じられてこなかったように思います。
ヘックマンの研究で知られるようになった非認知能力(社会情動的スキル)の重要性や、乳幼児期の子どもの教育・保育のほうがそれ以降の教育より投資効果が高いといった研究成果が重く受け止められることもなく、教育・保育政策に活かされるというようなこともありませんでした。
こども家庭庁の人口減少対策をみても、人口減少地域における保育機能の確保・強化や多機能化等の取り組みの支援・推進、人口減少に対応した公定価格(定員と実員の乖離を縮小するための定員区分の細分化)、小規模保育の充実(3~5歳児のみを対象とする事業の実施)など、保育存続のためものばかりで、少子化対策のために保育を戦略的に活かすという発想はほとんど見られません。
「こどもまんなか」というのは、子どもたちのウェルビーイングを尊重するだけではなく、その周りにいる保護者や大人のウェルビーイングも考えることであり、今の社会だけでなく未来の社会におけるウェルビーイングも大切にする重要な概念だと考えます。そうであればこそ、未来の有為な人材育成につながる、人間形成の基礎基本の時期である乳幼児期の子どもたちの育ちをどう保障するのか、質的な少子化対策の視点も含め政府を挙げて取り組むべきだと心から思います。