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存亡の危機に立つ公立幼稚園! ~公立の抱える問題を他山の石にできるか~

研究所メルマガvol.29

2024年9月24日

 今回のメールマガジンでは、「存亡の危機に立つ公立幼稚園の持続可能性」について考察してみました。少子化の加速や保育ニーズの変化などもあり、公立幼稚園が著しく減り続けています。そこには、明確な要因と改善・改革すべき課題が潜んでいます。この問題は、公私立保育所や認定こども園にとっても決して他人事ではありません。

 そこで、改めて公立幼稚園が抱える問題や存続可能性を高めるための課題などについて考えてみました。

 このほか、研究所WEBサイトの「お知らせ&情報」に最近アップしたニュースやトピックスをお知らせします。

 少子化の進行に加えて、女性就業率の上昇による保育ニーズの変化も相まって、全国の公立幼稚園が存亡の危機に立たされています。しかし、それ以外の教育・保育施設は今後とも安泰なのかと言えば、決してそうではありません。公立幼稚園ほどではないにしても、地域の中で存続が危ぶまれる私立幼稚園や公私立の保育所・認定こども園が出てくることは間違いありません。

 そこで、今回のメルマガでは、公立幼稚園がそこまで厳しい状況に置かれている背景や要因、さらには存続のための要件などを考えることで、多くの園の持続可能性を探ってみたいと思います。

 この問題に関連して、文部科学省の「今後の幼児教育の教育課程、指導、評価等の在り方に関する有識者検討会」が、9月20日の第12回会合で協議した最終報告案の内容を見てみましょう。同検討会は、幼児教育の基本的な考え方や課題などを中心に論議したものですが、併せてこれから必要な条件整備についても検討しています。その中で、今後の幼児教育施設の在り方、とりわけ公立幼稚園の問題についても言及しています。

 最終報告案では、「人口減少が急速に進み、運営の継続が困難となる幼児教育施設が増える地域も出てくることが見込まれる」とした上で、「とりわけ公立幼稚園が、他の幼児教育施設に比して、少子化や共働き世帯の増加等の影響により著しく減少を続けている」ことを注視する必要があると指摘しています。

 確かに、報告案でもデータを示しているように、公立幼稚園の園数は平成27年に4321園あったのが、令和4年には2910園まで減少しており、わずか7年間で3分の1がなくなっています。ピーク時(昭和60年)の6269園と令和6年の2534園を比べると、40年ちかくの間に6割も減少しています。

 さらに、文科省の調査によれば、今後5年以内に公立幼稚園の統廃合を行う予定があると回答した自治体のデータを収集したところ、令和9年度末までに193園の公立幼稚園が廃園等するとともに、114園が認定こども園に移行する予定となっていることが分かりました。公立幼稚園を抱える多くの自治体で統廃合が検討されていることを考えると、もっと多くの園が休廃園や統廃合するのではないかと見られています。

 こうした厳しい状況に置かれている一方で、最終報告案では、公立幼稚園の果たす役割として、①地域における幼児教育の拠点園としての役割、②幼小の円滑な接続を図るため架け橋期のカリキュラムの編成・実施・改善を主導する役割、③障害のある幼児や外国籍等の幼児を含む全ての幼児に質の高い幼児教育の機会を保障する役割などを挙げ、こうした役割を果たしていくことが重要であるとの考えを示しています。

 そこで報告案は、地方自治体に対して「公立幼稚園が果たすべき役割を明確化するとともに、その役割を果たせるよう、地域の実情や保護者のニーズ等を踏まえつつ、公立幼稚園における3年保育や預かり保育の実施、認定こども園への移行などについて検討する」よう求めています。

 これらを整理すると、公立幼稚園においては、障害児の受け入れをはじめとした自分たちのアドバンテージとである役割をさらに発揮すると同時に、3年保育や預かり保育の実施、認定こども園への移行など、社会状況の変化に対応した多様な機能を持つことが、不可欠の要素であることが明らかです。

 私立幼稚園に比べて公立幼稚園は、いまだに2年保育の園が多く、預かり保育の時間・日数も短く、認定こども園への移行もそれほど進んでいません。専業主婦家庭が激減し、共働き家庭が増加している現状を考えれば、保育所並の預かり保育を行わない限り幼稚園離れを食い止めることはできません。2年保育や1年保育を3年保育化することはもちろんのこと、満3歳児や未就園児への対応も求められます。そう考えれば、認定こども園化することが一番の早道だということになります。

 そのことを大前提として、公立幼稚園としてのアドバンテージ、つまり人手も労力も要する障害児や外国籍の子どもの積極的な受け入れ、地域子育て支援の拠点機能の強化、小学校教育との円滑な接続を図る架け橋プログラムのモデル的な役割など、公立ならではの強みを深掘りしていくことも重要になります。

 もっとも、これらの課題は、公立幼稚園に限らず、私立幼稚園はもちろんのこと、程度の差こそあれ、公私立の保育所・認定こども園にも共通して言えることです。

 これに関して、最終報告案は、国の役割として「今後、人口減少が急速に進み、運営の継続が困難となる幼児教育施設が増える地域も出てくることが見込まれる中、家庭や地域の状況に関わらず、全ての子供に格差なく質の高い幼児教育を保障するという観点や、幼児教育施設が地域社会の維持・発展にとって重要なインフラであるという観点から、地域において幼児教育施設の規模や期待する役割など今後のその在り方について検討を進めることができるよう、調査研究を行いその結果を共有するなど支援していくことが必要である」との考えを示しています。

 こども家庭庁も、人口減少地域における保育所等の在り方について検討に乗り出しています。こうした動きを勘案すると、取り返しのつかない状態に陥る前に、特にここ数年の間に、自園の多機能化や強みの深化、それを担う人材の確保、育成などに取り組むことが非常に大切になるのではないでしょうか。

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