少子化の加速と少子化対策の加速? ~加速化プランは何を加速させるのか?~
研究所メルマガvol.22
2024年6月6日
今月のメルマガ配信1
今回のメールマガジンでは、6月5日に厚労省から公表された人口動態統計と、同じ日に国会で成立した子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律を取り上げました。少子化の加速を示す統計データの一方で、次元の異なる少子化対策を実行するための関係法の成立という、何とも皮肉なタイミングとなりました。
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少子化の加速と少子化対策の加速? ~加速化プランは何を加速させるのか?~
6月5日 ── 皮肉なことに、この日、厚生労働省が令和5年(2023) 人口動態統計月報年計(概数)を公表し、少子化がさらに加速していることが明らかになった一方、少子化対策となる子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案が参議院本会議で可決・成立しました。
厚労省が公表したデータによると、出生数は前年より4万3482人少ない72万7277人で、過去最少を8年連続で更新しました。合計特殊出生率も、前年より0.06ポイント低い1.20と、これも8年連続で過去最低です。出生数に影響を及ぼす婚姻件数は、前年より3万213組少ない47万4717組となっており、未婚化・非婚化の傾向にもブレーキがかかっていません。
そんな厳しいデータが公表された同じ日に、こども未来戦略に盛り込まれた「こども・子育て支援加速化プラン」を実行するため、子ども・子育て支援法など関連法改正案が国会で成立しました。「加速化プラン」では、2030年までが少子化トレンドを反転させるラストチャンスであるとして、「次元の異なる少子化対策を推進する」との考えに立って、様々な施策を講じるとしています。
そのための具体的な施策として、①ライフステージを通じた子育てに係る経済的支援の強化や若い世代の所得向上に向けた取組、②全てのこども・子育て世帯を対象とする支援の拡充、③共働き・共育ての推進、④こども・子育てにやさしい社会づくりのための意識改革という4つの柱を掲げ、今後3年間の集中取組期間に「できる限り前倒しして実施する」としています。
加速化プランを実行するために必要な財源は、歳出改革による公費節減及び支援金制度の構築により3.6兆円程度の安定財源を確保するとしています。財源確保の目玉は、医療保険と合わせて徴収するこども・子育て支援金です。この支援金制度やこども金庫の創設を可能にするのが、この日の国会で成立した子ども・子育て支援法をはじめとする関連法です。
ただ、5月7日に発行したメルマガでも指摘したように、加速化プランに盛り込まれた少子化対策は、児童手当の大幅な拡充をはじめとした現金給付に比重を置いています。言い換えれば、3.6兆円程度の安定財源を確保したとしても、その多くは現金給付に回され、処遇改善や職員配置の改善などの現物給付(サービス給付)に行き渡るものではありません。
現物給付を重視していれば、4・5歳児の配置改善加算についてティーム保育加算を受けている施設を除外するようなことはしません。1歳児の5:1も同時に実現しているはずです。こども誰でも通園制度の試行的事業についても、利用上限時間を月10時間に制約することはなかったでしょう。
こども大綱では、「エビデンスに基づき多面的に施策を立案し、評価し、改善していく」いわゆるEBPM(Evidence Based Policy Making)を重視するとしていますが、現金給付中心の少子化対策が果たして期待するエビデンスを得ることができるのかどうか。
前回のメルマガでChatGPTを取り上げましたが、今回も面白半分で「少子化対策の成果はなぜ上がらないのか」を聞いてみました。
すると、「少子化対策の成果が上がらない理由は多岐にわたります。以下にいくつかの主要な理由を挙げます」として、「経済的要因(若者の所得が安定していないことや雇用の不安定さ)」「育児費用の高さ」「社会的要因(働き方改革の遅れ、男女平等の遅れ)」「文化的要因(価値観の変化、ライフスタイルの多様化)」「政策の効果不足(一貫性の欠如、対象の狭さ)」「インフラの不足(保育施設の不足、住宅事情)」などが挙げられました。
その上で、「これらの要因が複雑に絡み合い、少子化対策の効果を阻害しています。対策を成功させるためには、経済的支援、社会制度の改革、価値観の見直しなど、多面的なアプローチが必要です」と答えています。
興味深かったのは、「政策の効果不足」について、一貫性の欠如(政策が一貫しておらず、短期的な施策が多いため、継続的な効果が見込めないこと)や、対象の狭さ(少子化対策が特定の層、例えば既婚者や既に子供がいる家庭に偏っており、幅広い層に対応できていないこと)を指摘していることです。上述した現金給付に偏った対策、これが少子化対策の一番の問題かもしれません。