少子化対策としての現金・現物給付の有効性とは ~相変わらず現金給付偏重で質は先送り?~
研究所メルマガvol.20
2024年5月7日
今月のメルマガ配信1
今回のメールマガジンでは、今国会に提出され、審議が行われている「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案」が目指す各種施策のうち、少子化対策における現物給付と現金給付の違いを考えてみました。
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少子化対策としての現金・現物給付の有効性とは
~相変わらず現金給付偏重で質は先送り?~
こども未来戦略の加速化プランに盛り込まれた各種施策の実施に向けて、給付面と財政面の改革を一体的に行うための「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案」が、今国会で審議入りしました。
この改正法が目指す施策をみると、「次元の異なる少子化対策」として政府が重視している施策の実態が見えてきます。結論を先に言えば、現物給付より現金給付の重視です。法案に盛り込まれた重要施策としては、児童手当の拡充(支給期間の延長、所得制限の撤廃、第3子以降の児童に係る支給額の増額など)や、妊娠期の負担軽減のための妊婦のための支援給付の創設、児童扶養手当の第3子以降の児童に係る加算額の引上げ、両親共に育児休業を取得した場合に支給する出生後休業支援給付、育児期に時短勤務を行った場合に支給する育児時短就業給付など、現金給付が目白押しです。
これに対して現物給付は、こども誰でも通園制度のための給付の創設や、妊娠期から伴走型で支援を行う妊婦等包括相談支援事業、産後ケア事業の計画的な提供体制の整備といったものです。現金給付に比べると、質、量ともに見劣りする感は否めません。
こども家庭庁が作成した資料「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案のポイント」に示された「こども未来戦略<加速化プラン>に基づく給付等の拡充」をみると、市町村等の医療保険者が国に納める子ども・子育て支援納付金を充当する事業として、①ライフステージを通じた経済的支援の強化:児童手当の抜本的拡充、妊婦のための支援給付の創設(10万円相当の経済的支援)、②全てのこども・子育て世帯への支援の拡充:乳児等のための支援給付(こども誰でも通園制度)の創設、③共働き・共育ての推進:出生後休業支援給付(育休給付率を手取り10割相当に)、育児時短就業給付(時短勤務時の新たな給付)、育児期間中の国民年金保険料免除措置の創設が挙げられています。
これを見る限り、明らかに現物給付より現金給付に重きを置いていることが明らかです。
この現物給付と現金給付の状況について、財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会で4月16日に配布された資料によると、民主党政権下において子ども手当が創設された2010年から現金給付の割合が大きく高まりました。
これが、その後、待機児童対策によって保育の受け皿整備が進められ、2015年度からは子ども・子育て支援新制度の施行によって消費税から0.7兆円の財源が主に現物給付に回されたことなどから、現物給付の割合が再び現金給付を上回るようになりました。2019年時点では、現物給付が対名目GDP比で1.08%、現金給付が0.66%となっています。
しかし、2021年10月から始まった幼児教育・保育の無償化によって、再び現金給付の割合が大きくなり、現物給付と拮抗するようになってきました。ちなみに、幼児教育・保育の無償化は、現物給付化された現金給付ではありますが、利用者の保育料負担を無償化するための個人給付であり、つまるところ現金給付ということになります。
そこに加速化プランによる現金給付重視の施策が講じられるようになれば、間違いなく現金給付の割合が大きく高まることになります。問題は、「次元の異なる少子化対策」として、果たして現金給付のほうが現物給付より対策の効果が高いのかということです。
研究者やシンクタンク等の論調を見る限り、出生率の向上に現金給付はそれほど大きな効果はない、現金給付重視から現物給付重視へのシフトが望ましい、現物給付(保育・幼児教育)が現金給付(児童手当)よりも費用対効果が高い、といった意見が大勢です。児童手当のような現金給付に一定の効果が見込めるのは、低所得層に対してであるとも言われています。
ヨーロッパ主要国に比べて日本は現金給付の割合が少ないと指摘する声もありますが、2019年の家族関係社会支出を対名目GDP比でみると(財務省のデータ)、日本が1.74(現物給付1.08%、現金給付0.66%)であるのに対して、スウェーデンは3.42(同2.13%、1.29%)、フランスは2.71(同1.38%、1.34%)、ドイツは2.42(同1.34%、1.08%)、イギリスは2.41(同0.97%、1.44%)などとなっており、そもそも対GDP比で現物・現金給付の割合が日本より大幅に高い上に、現金給付のパーセンテージも高くなっています。
現物給付の割合が高いと言うことに関しても、1994年のエンゼルプラン策定以来、待機児童ゼロ作戦や待機児童解消加速化プラン、新子育て安心プランなど、待機児童を解消するための量的拡大に財源の多くが回されたためであって、必ずしも質の向上のための財源が増えたわけではありません。
本稿では、これ以上多くを語りませんが、質の高い教育・保育を乳幼児期の全ての子どもに保障することで、将来の不必要な格差が縮小され、いわばマンパワーの生産性が向上するということを考えれば、やはり現物給付を重視し、とりわけ質の向上やそのための人材確保・定着・資質向上を図るための財政措置が不可欠だと言えます。そのことの理解を政治にも期待したいと思います。
なお、子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案が4月18日、衆議院の地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会で可決された際に、附帯決議も行われましたが、その中で児童手当について、「児童手当の拡充に当たって同手当を次代を担う全てのこどもの育ちを支える基礎的な経済的支援として位置付けた趣旨を踏まえ、本法による効果も検証しつつ、必要に応じて、その在り方について、検討すること」と、効果の検証を行うよう求めています。