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待機児童の増減が映し出す様々な様相

待機児童の有無や増減と今後の保育政策の関係は?

2025年5月13日

 今回のメールマガジンでは、待機児童問題について、今後の保育政策の動向や社会状況の変化と絡めて考えてみました。

 横浜市では、今年4月1日現在の待機児童が12年ぶりにゼロになる一方、3年連続で待機児童ゼロを続けてきた板橋区では、僅かな人数ながら待機児童が生じてしまいました。

 その背景や要因には何があるのか。「こども誰でも通園制度」や自治体独自の3歳未満児の保育無償化などの政策動向が、これからの保育ニーズにどのような影響を及ぼすのか。違った切り口から待機児童問題を考えてみました。

 今回は、待機児童問題を少し違った角度から考えてみたいと思います。

 かつて待機児童問題に頭を抱えた自治体の多くが、現在、待機児童数を大幅に減らし、待機児童ゼロを達成した自治体も数多くあります。しかし、ようやく待機児童ゼロを実現した自治体がある一方、再び待機児童が生じた自治体も出てきています。

 その背景や要因を探っていくと、単なる需要・供給の問題ではなく、保育ニーズの変化というもっと本質的な要素が垣間見えてきます。言い換えると、待機児童の増減や有無は、様々な保育政策や社会状況の変化を教えてくれるバロメーターでもあるということです。

 このことは、待機児童そのものの問題というより、保育ニーズの複合的な変化という観点から、自分たちの地域における将来の保育ニーズの変化に結びつく問題として受け止めておく必要があります。

 例えば、横浜市は今年4月1日現在で待機児童数が0人となり、2013年以来12年ぶりに待機児童ゼロを達成しました。

 同市は、受け入れ枠が不足している地域に重点的に保育所等を整備したり、医療的ケア児の受け入れを充実させたサポート保育園を増設するなどして、徐々に待機児童を減らしてきており、前年度は待機児童5人にまで減っていました。保育コンシュエルジュによるマッチングも功を奏したと考えられます。

 こうした独自の工夫や取り組みによって成果を上げてきたわけですが、今後も待機児童ゼロを維持できるかどうかは分かりません。その参考例として、板橋区のケースを見ておきます。

 板橋区は、ピークであった2014年度に515人という待機児童を抱えましたが、受け皿整備を進めていったことにより、その後は徐々に待機児童数が減少し、2022年度から3年連続で待機児童ゼロを実現しました。ところが、今年4月1日現在で7人の待機児童が生じたのです。

 同区では、「7人」という数の大小ではなく、3年連続で続いてきた待機児童ゼロが途絶えたことに衝撃を受けています。なぜならば、同区の就学前人口は2010年以降減り続け、今後の推計人口も減少すると予測されているからです。乳幼児人口が減少し、一方で保育の受け皿整備を図ってきたにもかかわらず、待機児童が現れたのです。

 その要因については、これから分析することになると思いますが、現時点でもいくつかの可能性が考えられます。それを考える手掛かりは、年齢ごとの待機児童数です。板橋区の場合、待機児童は0歳児より1歳児、2歳児に多かったということです。

 ここからは想像の範囲内ですが、①0歳児は育児休業の普及などによりニーズが減ってきている、②逆に1歳児の増加により2歳児の新規利用枠が少なくなっている、③保育人材難もあって1・2歳児の受け入れ枠を増やしにくい状況が見られる、といった要因が考えられます。

 もちろん、区内の地域偏在も大きいと思います。空き定員は認可保育所だけで1028人に及び、7人の待機児童を受け入れる余地はいくらでもありますが、結局は通園可能エリアかどうかということによるため、需給のミスマッチが生じているということです。

 今後どうなるかを考えたとき、東京23区である板橋区に関しては、3歳未満児の保育料について、東京都が今年9月から第1子の無償化を実施することの影響が少なからずあるでしょう。この無償化は、3歳未満児の保育ニーズをかなり押し上げる可能性があります。

 一方、来年度から全国で「こども誰でも通園制度」が本格実施されますが、東京都は独自に「多様な他者との関わりの機会の創出事業」を行っており、国の制度と同じような事業でありながら、利用上限時間も補助単価も大幅に引き上げています。この事業が、3歳未満児の無償化とどう関わり合うのか、フルタイム就労ではない子育て家庭の場合、3歳未満児のいる子育て家庭にとって選択肢が増えるだけに、その影響が注目されます。

 なお、保育利用児童の増減は、出生数(乳幼児人口)の状況と保護者(特に母親)の就業率の動向によって大きく左右されます。そこに、3歳未満児の無償化や「こども誰でも通園制度」などの新たな要因が加わることで、それぞれの地域の保育需要が左右されることになります。これらの要素(変数)をどう読み込んで、地域における将来の保育需要を見通すかが、多機能化にせよ、法人合併にせよ、法人連携にせよ、縮小・徹底にせよ、これからの園経営を考える際の一つの出発点になりそうです。

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