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旧態依然とした少子化対策(政策)の呪縛

~相変わらず希薄な“こどもまんなか”の視点~

2025年7月12日

 今回のメールマガジンは、7月20日に投開票が行われる参院選の選挙公約に注目して、各政党の掲げる公約に見られる少子化対策や保育政策、子ども・子育て支援政策を見てみました。

 残念ながら、今回の公約では、子ども分野や保育分野に関して期待されるような政策や考えが示されておらず、少子化問題に対する危機感も希薄だと感じられました。

 なお、今回のメルマガはvol.49となっていますが、vol.48は本日、こども家庭庁の幹部級人事異動について、WEBサイト会員にだけ発出しています。

 今回のメルマガは、来る参議院議員選挙に向けて各政党が打ち出した選挙公約を取り上げました。選挙公約は自党を有利に運ぶため、耳障りのいい有権者受けする内容を盛り込むことが多いのですが、それでも何を国の重要政策と考えているのかも浮き彫りになります。

 今回はそうした視点に立って、主要政党の公約から見えてくる保育政策や子ども・子育て支援政策を見てみたいと思います。

 各政党の公約をざっと見て、まず率直に感じるのは、少子化の進行に対する危機意識の希薄さや保育政策に対する関心・理解の低さです。

 少子化対策に関しては、せいぜい公明党が、少子化トレンドを本格的に反転させるため、こども未来戦略の「こども・子育て支援加速化プラン」の後に向けて検討を進める旨を示したくらいで、どの主要政党も少子化問題や少子化対策について踏み込んだ考えを示していません。

 少子化のさらなる進行が、社会保障制度の持続可能性を危うくするだけでなく、将来の深刻な労働力不足や社会経済の困難さを増大させることが分かっているにもかかわらず、その危機感に基づいた骨太の主張がほとんど見られないのは、残念を通り越して情けないとしか言い様がありません。

 いかに直近の参院選のためとはいえ、多くの政党が給付や手当、減税云々といった目先の対策にばかり声を大にし、批判し合うという姿は、「私が本当の母親だと言って、子どもが痛がって泣いているのに、手を引っ張り続けている」様子にしか見えません。大岡越前守の「大岡裁き」の逸話にあるように、痛がる我が子を見て思わず手を離した本物の母親はいないのかもしれません。

 少子化対策に関して筆者が特に主張したいのは、少子化対策に対する発想の転換が必要ではないかということです。もっとストレートに言えば、出生数を増やす(あるいは減らないようにする)という量的な対策よりも、出生数が減ることを前提にしながら、それでも国や地域社会が成り立つような仕組みや制度、政策に転換し、質的な対策を重視する必要があるということです。

 我が国最初の少子化対策であるエンゼルプラン(1994年12月策定)から30年も経っているにもかかわらず、少子化の進行に歯止めをかけることができず、ここ数年むしろ少子化が加速しているような状況が続いています。

 エンゼルプラン以降、今日に至るまで、少子化対策の基調は少子化のトレンドを反転させるということでした。それが間違っているとまでは言いませんが、結果として30年にわたって対策が成果を生まなかった以上、一定の少子化が進むことを前提に、未来の日本を支え、地域社会を担う人材を根っこのところから育成することが、最大の少子化対策だと考えます。

 とりわけ、人間形成の基礎基本を培う乳幼児期の子どもの健やかな育ちを保障することが、人材という資源しかない日本にとって最良の方策ではないでしょうか。今さらヘックマン・シカゴ大学教授の研究成果を持ち出すまでもないでしょうが、乳幼児期の子どもに質の高い保育を保障することが、遠回りなようでいて実は最も有効で、未来への投資が最も効果が高いということです。そこに焦点を当てた少子化対策が、もっと議論されていいように思います。

 それにもかかわらず、保育政策を含む質的な少子化対策については、少なくとも政治の舞台では議論の俎上にさえ上がっていません。それが、今回の参院選の選挙公約にも現れているように思います。

 余談ながら、参議院選挙を前にNHKが各政党や政治団体を対象に政策アンケートを行っています。その中で、「政府が最優先で取り組むべき少子化対策」について、7つの選択肢を挙げて聞いています。

 7つの選択肢に対する回答をみると、「若者の所得向上や雇用環境の改善」が立憲民主党、公明党、共産党、日本保守党、みんなでつくる党、NHK党で最も多く、次いで「子育て世帯に対する経済的支援」が自民党、国民民主党、れいわ新選組、参政党、チームみらい、「教育の実質無償化」が日本維新の会と社民党となっていました。

 逆に、「保育サービスの充実」「妊娠・出産の支援」「子育てしやすい労働環境の整備」という選択肢については、どの政党も回答がゼロでした。

 筆者の独断と主観によれば、回答を求めたNHKも、回答した各政党も、少子化対策には量的な側面と質的な側面があるという理解がなく、「こどもまんなか」の視点から少子化対策を捉え直す発想もないことが明らかになりました。

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