第3期市町村事業計画の課題とは?~供給過剰(=定員割れ)にどう対応するのか~
研究所メルマガ vol.05
2023年7月30日
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第3期市町村事業計画の課題とは?~供給過剰(=定員割れ)にどう対応するのか~
2015年度から始まった子ども・子育て支援制度(いわゆる新制度)も9年目を迎え、次のステージへ移ろうとしています。これまでは、増え続ける待機児童が大きな社会問題となり、新制度が施行あれた翌年に「保育園落ちた、日本死ね」という匿名ブログがマスコミを賑わし、政治問題にまで発展していきました。新制度も、すべての子どもの最善の利益を標榜しながら、実質的には待機児童対策の色彩の濃いものになりました。
待機児童数の推移をみても(各年4月1日現在)、新制度以前の2014年に2万1371人であったものが、新制度誕生の2015年に2万3167人、2016年に2万3553人、2017年に2万6081人と増え続けていきました。
これに対応して、新制度と並行して待機児童対策にも取り組み、待機児童解消加速化プラン(2013~2017年度)、子育て安心プラン(2018~2020年度)、新子育て安心プラン(2021~2024年度)と、矢継ぎ早に対策を打ち出しました。
これらの待機児童対策に加えて、予想以上に進んだ少子化によって、待機児童数は2018年に1万9895人と10年ぶりに2万人台を下回り、2019年に1万6772人、2020年に1万2439人、2021年には5634人と遂に1万人台を大幅に下回り、2022年には2944人まで減りました。
こうした状況を背景に、たとえごく一部の地域に待機児童が生じたとしても、新制度のメインストリームから待機児童問題は外れると見られています。子ども・子育て支援制度の運用上の特徴は、市町村が実施主体となって地域の実情や地域特性に応じて、必要な教育・保育、地域子育て支援を提供するということです。そのため市町村は、5年を1期とする市町村子ども・子育て支援事業計画を策定し、これを着実に推進することとされています。
この市町村事業計画は、地域における教育・保育、地域子育て支援の需要を把握し、その需要に対して質・量とも十分な供給を行う需給計画という性格を持っています。つまり、5年間の需要の見込みを算定し、それに対する供給を確保することが眼目となっています。
2015年度からの第1期計画は、市町村にとっても待機児童の解消が最大の課題とされ、増大する2号・3号子どもの保育需要に対して、いかに供給を確保するかがポイントでした。そのため多くの市町村では、保育所の新増設や小規模保育所の開設など保育の受け皿整備に精力を傾けました。
2020年度からの第2期計画においても、計画策定時点で2万人近い待機児童が存在したことから(その後、ここまで急速に待機児童が減少するとは想像していなかったことから)、基本的には待機児童対策の性格を色濃く残したまま、第1期計画の延長線上に第2期計画を位置づけたところがほとんどでした。
しかし、第1期計画と第2期計画には、計画策定時の量の見込みに真逆の違いがありました。第1期計画では、膨らむ保育需要を甘く見込んだ市町村が多かったため、その中間年(2017年)の見直しにおいて2号・3号子どもの保育需要の見込みを上方修正するところが相次ぎました。
ところが、第2期計画では、新型コロナウイルス感染拡大の時期と重なったこともあって、中間年(2022年)の見直しにおいて保育需要の見込みを修正するところはほとんどありませんでした。厳密に言えば、実際の保育需要が当初の需要見込みを下回り、むしろ供給過剰と言える状況さえ見られる地域も少なくありませんでした。
さて、それでは、2025年度から始まる第3期市町村事業計画はどうなるのでしょうか。ごく一部の地域を別とすれば、基本的に多くの市町村では、保育需要が高まる可能性は低く、むしろ供給が過剰となる地域が増えていくものと考えられます。これは、定員割れの教育・保育施設が増えることを意味します。
第1期・第2期計画が保育の供給を増やす計画であったとすれば、第3期計画は過剰となった供給を減らす、または抑制する計画にならざるを得ません。公立施設が多い市町村の場合は、公立施設の統廃合が最も有効な手段となります。公立が少ない、あるいはほとんどない市町村の場合、定員割れに陥った私立施設の利用定員の引き下げが相次ぐ可能性が高いと考えられます。利用定員の引き下げでもカバーできないケースが出てくれば、施設の撤退や設置法人の合併などもあり得ます。
問題は、これまでの計画では想定していなかった保育需要の停滞・減少に対して、需給計画として供給の抑制・縮小という新しい局面への方策を描くことができるかどうかということです。利用定員の引き下げ一つ取ってみても、引き下げそのものに消極的な市町村が少なからずあって、市町村事業計画が需給計画であること(つまり需要が減れば供給も減らすのが基本であること)への理解が乏しいのが実情です。
また、保育需要は減っていったとしても、逆に未就園児家庭をはじめとしたすべての子ども・子育て家庭への支援をどう拡充するのか、その際に供給過剰となった教育・保育施設という地域社会資源をどのように利活用するのか、といった新たな発想がこれから大切になります。そうした新たな発想に基づいた事業計画をどこまで構想できるかどうか、市町村行政担当部局の力量と見識が問われます。
残念ながら時間はあまりありません。某自治体のスケジュール案では、今年11~12月にニーズ調査の実施、来年1~2月に調査結果の集計・分析、来年2~3月に調査結果の取りまとめ、7~8月に計画骨子案の提示、9月に計画素案の作成、10~11月に計画素案の確定、再来年1月にパブリックコメントの実施、2月に計画最終案の提示となっています。
つまり、実質的には、今から1年数ヶ月しかないことになります。わずか1年ちょっとで2025年度から2029年度までの第3期市町村事業計画が策定されるわけです。地方版子ども・子育て会議の活用とも相まって、早急にその対応策を検討し、同時に行動に移さなければ、新たな局面に立ち向かう計画はできない、ということを改めて考える必要があります。