保育人材確保の実態や課題を探ってみると…
都市部への流出、養成校の危機にどう対応するのか
2025年5月26日

今回のメールマガジンでは、三菱UFJリサーチ&コンサルティングがまとめた「保育人材確保にむけた効果的な取組手法等に関する調査研究」報告書を取り上げました。こども家庭庁の調査研究事業の一環として行われたものです。
それによると、採用面での課題として、人口規模が「1万人未満」の保育所等では「都市部、近隣自治体への人材流出」が51.0%と半数を超え、人口規模の小さい自治体での人材流出が深刻化していることが分かりました。
また、人材採用に効果があった取り組みとして、「保育士養成校との連携」が多く挙げられていました。ただ、肝心の養成校が定員割れを起こして、入学者の募集停止に追い込まれるケースも増えてきており、人材採用・確保の手前である養成段階から確保方策を検討する必要がありそうです。
こども家庭庁の令和6年度調査研究事業の一環として、三菱UFJリサーチ&コンサルティングがこのほど、「保育人材確保にむけた効果的な取組手法等に関する調査研究報告書」をとりまとめました。
この調査研究事業は、①各自治体・保育所等における人材確保の実態及び課題は何か、②人材確保の課題は地域特性や施設類型等によってどのように異なるのか、③人材確保の課題に対する効果的な取り組みは何か、といったことについてアンケート調査やヒアリング調査によりアプローチしたものです。
今回のメルマガでは、そこからうかがえる特徴を簡潔に紹介しておきたいと思います。
〈保育所等アンケートの結果から〉
○直近3年程度における人材の不足感については、「とても感じている」が42.7%、「まあ感じている」が37.6%で、8割以上の保育所等が人材の不足を感じていた。
○施設種別では、人材不足感について保育所や認定こども園が軒並み80%を超えているのに対して、小規模保育などの地域型保育事業は約68%と低い傾向がみられた。
○人材の不足を感じる場面については、「職員の休暇取得の調整」(66.6%)、「延長保育の時間帯」(59.1%)、「代替職員の確保」(54.6%)、「勤務時間内の研修受講や会議の実施」(53.2%)、「早朝保育の時間帯」(51.4%)などが挙げられていた。
○特に不足していると感じる人材については、「早番や遅番の担当保育士」が61.9%で最も多く、次いで「産前産後休暇や育児休業、病気休業等代替保育士」が52.9%、「障害児対応等担当の保育士」が41.6%となっていた。
○令和5年度の採用人数の平均は、常勤職員1.4 人、非常勤職員0.9 人の計2.3 人となっていた。一方、退職者については、「いた」と回答した保育所等が68.3%で、退職者数の平均は常勤職員1.6 人、非常勤職員0.9 人の計2.6 人となっており、採用人数より退職者のほうがやや多い状況がうかがえる。
○採用面で課題となっている要因をみると、「給与等の待遇」が45.9%で最も多く、次いで「都市部、近隣自治体への人材流出による母集団不足」が25.4%、「採用に関する情報発信」が21.7%などとなっていた。
○このうち、「都市部、近隣自治体への人材流出による母集団不足」については、人口規模が「1万人未満」の保育所等で51.0%と半数を超え、「1万人以上5万人未満」で35.8%と、人口規模の小さい自治体で人材流出が深刻化している。
○求人募集で効果のあった媒体・経路をみると、「公共職業安定所」が39.1%で最も多く、次いで「民間職業紹介事業者」が33.8%、「養成校等への求人票提出」が30.2%となっていた。
○人材採用に効果があった取り組みについては、「保育士養成校との連携」が20.5%で最も多く、次いで「職場見学の実施」が13.7%、「求人条件の明確化など求人情報の表示内容の工夫」が10.5%などとなっていた。
○職場環境の改善に関して、人材の採用・定着に対して効果があると思う取り組みをみると、「職場のなごやかな雰囲気づくり」が62.9%で最も多く、次いで「書類業務の見直しなど、事務作業の負担軽減」が52.2%、「給与水準の見直し」が47.3%などとなっていた。
〈吉田のコメント〉
今回の調査研究報告書からは、保育人材確保に関する様々な実態や課題が見えてきますが、ここでは今後早急に対策を検討すべき課題を2つだけ示しておきます。
一つは、人口規模の小さな自治体においては、「都市部、近隣自治体への人材流出」がかなり大きな比重を占めており、人口減少地域ほど少子化による乳幼児人口の減少に加え、保育人材の確保も困難な状況に陥っていることです。
人口減少地域における保育機能の確保・強化が重要な課題になっていますが、そのために多機能化を図ろうとしても肝心の人材が確保できないのでは、多機能化したくてもできません。こうした地域において、保育人材の確保・定着を少しでも図れるような方策や手立てを検討する必要があります。決して簡単なことではありませんが…。
また、人材採用に効果があった取り組みとして、「保育士養成校との連携」が挙げられていますが、肝心の養成校が入学志願者の減少により定員割れを起こし、募集停止に追い込まれるケースが相次いでいます。やはり地方ほど厳しい状況にありますので、保育人材の採用・確保だけでなく、その手前の人材養成の段階から確保方策を検討する必要があると感じています。
最適解を見出すことは容易ではありませんが、このまま手をこまねいていては(従来通りの正論だけでは)なし崩し的に事態は悪化するばかりです。前例に囚われない思い切った議論とスピード感のある対応策を講じることが求められます。