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認可保育所での有料の習い事を実質的に解禁

~園児獲得の道具として利用される心配は?~

2025年3月25日

 今回のメールマガジンでは、政府の規制改革推進会議の中間答申で提言された「認可保育所における付加的サービスの円滑化」について考えてみました。

 体操や音楽、英語などの付加的サービスについて、認可保育所に対しては抑制的な対応が取られていましたが、この規制を緩和して上乗せ徴収による提供を可能にするというものです。しかし、少子化が進む中で、園児獲得の道具に使われる懸念もあるだけに、その運用の在り方が問われそうです。

 こども家庭庁のこども家庭審議会・子ども・子育て支援等分科会が先ごろ開かれ、その中で規制改革に関係する保育政策として、「認可保育所における付加的サービスの円滑化」について改めて説明が行われました。

 これは、政府の規制改革推進会議が昨年12月に決定した規制改革推進に関する中間答申に盛り込まれたもので、体操やダンス、音楽、絵画、英語などの習い事、稽古事を付加的保育として認め、上乗せ徴収による費用徴収を可能にするよう求めたものです。

 ただし、有料の付加的保育を実施する際には、保護者に対する説明や同意を得ること、料金設定について保護者の経済的負担に配慮すること、付加的サービスに参加する児童と参加しない児童それぞれに適切に対応することなどの条件を課すことにしています。

 その上で、中間答申は、市町村に対して、①実施される付加的サービスの内容、②保育の指導計画への位置付け、③実施時間(コアタイム内・外)、④料金設定(保護者の経済的負担への配慮を含む)、⑤保護者への説明及び同意取得、⑥付加的サービスに参加しない児童への対応などを調査し、その結果を市町村や保育事業者に対して周知するとともに、こども家庭庁ホームページで公表するよう求めています。

 さらに、中間答申では、こども家庭庁に対して、付加的サービスの実態調査結果も踏まえながら「認可保育所における付加的サービスの実施の要件等の整理・明確化について、更なる検討を行い、結論を得た上で、所要の措置を講ずる」よう要請しています。

 これらの措置については、令和7年度中に実施するとしています。

規制改革の観点からは、費用徴収を含め付加的サービスに関する規制を緩和して、事業者の創意工夫が発揮されるような環境を整えようとする考えも分かります。利用者の選択に資す るという観点からも一理あると思います。

 しかし、少子化の進行とともに乳幼児人口も減少し、これから定員割れの保育施設が増えてくることが予想されます。そのときに、付加的なサービスの有無によって施設選択が行われたり、施設側の園児集めの手段に使われたりするリスクが生じることも考えられます。

 保護者の選択に委ねた場合、費用の問題もあって、付加的サービスを受ける園児と受けない園児が出てくる可能性もありますが、通常の保育時間の中でそうした違いが生じてもいいのかどうか、いささか疑問が残ります。

 また、認定こども園は直接契約ですから、保護者との契約において付加的なサービスを適切に提供することは認められていいと思います。一方、私立保育所は、市町村の委託を受けて保育を実施しているわけですから、保護者にとって保育は市町村と契約し、付加的サービスは保育所と契約するという複合的なやり方を認めていいのかどうか。少なくとも通常の保育時間内で行うものについては、好ましくないのではないかと考えられます。

 規制緩和の名の下に多くの付加的サービスを緩和して、事業者の創意工夫や利用者の選択に委ねることが全て「こどもまんなか」の理念に沿うことなのかどうか。子どもの育ちに関して、一定の公平性や保育の質といったことをどこまで担保すべきか。難しい課題ではありますが、人口減少地域が増えることは間違いないだけに、単なる規制「緩和」と意味のある規制「改革」の違いを区別して、いたずらに競争環境を生むようなことは避けてもらいたいものです。

 その一方で、保育指針や教育要領などで保育のスタンダード化を強め、保育施設それぞれの創意工夫や個性を抑制するようなことがあっても困るのですが…。


*なお、これに関しては、弊WEBサイトの会員ページ(「コラム・寄稿文」⇒「コラム」⇒「保育ナビ」(2025年1月15日、「vol.116|保育所での習い事が当たり前に?」)にも関連コラムを掲載しています。

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