過疎地域の保育士配置要件を緩和?
~保育者の配置基準や資格要件の在り方は課題だが…~
2025年6月29日

今回のメールマガジンは、思い込みによって客観的な事実から離れてしまった新聞記事を素材に、正しい情報を知ることの難しさと、情報の確度を判断することの困難さについて取り上げました。
その一方で、人口減少地域における保育機能の維持・強化に関して、保育者の配置基準や資格要件などの在り方が検討課題になる可能性があることを踏まえて、今後の保育人材確保に関わる在り方も考えてみました。
今回のメルマガは、マスコミ報道の危うさと、その一方で保育に関する課題意識の妥当性について、かなり私見を交えながら考えてみたいと思います。
そう考えるに至った発端は、「保育士の配置基準、過疎地で緩める こども家庭庁が検討」という見出しを掲げた6月23日付の日本経済新聞の記事でした。
それによると、「中山間地域や離島で保育士の確保は難しくなっている」ことから、社会福祉法人の合併や事業譲渡など「サービスの提供体制の維持」を目指す一環として、保育士配置基準の緩和も検討するという趣旨の記事でした。
これだけ読んだら、「ああ、そうかもしれないな」と筆者も受け止めたと思います。
しかし、それに続く記事が「同庁が23日、2040年を見すえた保育や介護のあり方などを話し合う検討会で方向性を示した」と書かれているのを見て、「えっ!」と驚きました。
この表現でピンとくる方は少ないかもしれませんが、「2040年を見すえた保育や介護のあり方などを話し合う検討会」というのは、厚生労働省老健局が主催する「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会のことです。けれども、記事には「厚生労働省」の文字が一切なく、まるでこども家庭庁が主体になって開いた会議のように誤解する可能性があります。
この検討会は、今年1月から開催されており、介護や地域包括ケアを中心に検討してきましたが、5月から保育や障害にも拡げて社会福祉全体の問題として議論しています。会議の庶務は厚労省の老健局ですが、ほかに社会・援護局福祉基盤課、障害保健福祉部企画課、こども家庭庁成育局保育政策課も協力することになっています。
実は筆者も、この検討会のメンバーとして5月から参加しており、6月23日の会議にも出席していました。
この日の会議では、「検討の方向性」を示した資料が提示され、保育分野についても「中山間・人口減少地域」、「大都市部」、「一般市等」という地域分類をベースに、「保育機能の維持・確保を進めていくため」の方策が課題として挙げられました。
その中で、「保育所等の多機能化、法人間の連携、法人の合併や事業譲渡、統廃合等」のほか、「中山間地域や離島を中心にこどもが少ない地域においては、保育士のような専門職の確保は特に困難であると考えられ、常勤・専従要件など、様々な配置基準について弾力化していく必要」がある旨が盛り込まれていました。
ただし、この課題について議論はほとんど行われていません。保育分野に関してまとまった意見を言ったのは筆者だけだったと思いますが、配置基準の問題については触れていません。
それだけに、日経の記事を見たときには驚きました。会議に出席して意見を述べた人間が知らない話が、しかもこども家庭庁の動きとして報じられたのですから。
この記事は、完全な誤報とまでは言えないにしても、相当な誤解を招くものであったことは間違いありません。
そこで、今回の記事の真贋とは別に、配置基準や資格の在り方について少し考えてみたいと思います。
「月120時間以上勤務する者」としている現行の常勤保育士の要件について、同記事は「要件緩和を検討する」と書いていますが、この問題も一つの課題ではあります。
そもそも常勤保育士の要件について、同庁は令和5年4月21日付の通知で従来の「1日6時間以上かつ月 20 日以上勤務するもの」に加えて、「1か月に勤務すべき時間数が120時間以上であるもの」も可能としました。
これにより、例えば週4日、1日8時間勤務している保育者は、月130時間前後の勤務となるため、常勤保育士とみなされます。毎日は働けないけれども、1日当たり8時間以上働けるという多様な働き方が可能になり、最低基準上の常勤保育士となれば、法定配置人数や処遇改善等加算の平均経験年数の算定等に影響しますので、当人にも園にもメリットがあります。
また、職員配置基準に関しては、既に①朝夕などの子どもが少ない時間でも保育士2名が必要だったところを1人は子育て支援員で代替可能、②幼稚園教諭や小学校教諭等を保育士としてカウントできる、といった緩和が行われています。こうした配置基準を人口減少地域においてさらに緩和できるかどうかも課題になり得ます。
さらに、小規模保育事業のB型は、2分の1以上が保育士であればいいという資格所有の弾力化が図られていますが、こうした資格所有のさらなる弾力化や緩和が、地域限定的に可能かどうかといったことも課題としては考えられます。
人口減少地域ほど保育人材の確保が困難であるだけに、保育士資格や幼稚園教諭免許など有資格者にこだわっていたのでは、必要な保育者を確保できない恐れがあります。一定の保育の質や子どもの安全・安心を担保しながら、その上で保育機能の維持・強化をどう図ることができるのか、そうした観点から配置基準や要件、資格の問題も検討する必要があり、実際に検討に入る可能性もありそうです。