International雑感~国際シンポジウム、海外視察
研究所メルマガvol.31
2024年10月25日

今回のメールマガジンでは、先日、金沢で開催した国際シンポジウムについて、印象に残っていることを雑感的に取り上げてみました。併せて、吉田が現在、デンマークのコペンハーゲンと、スウェーデンのストックホルムに視察・研究に来ているということで、視察の前半に訪問したデンマーク評価研究所の活動に触れてみました。
このほか、研究所WEBサイトの「お知らせ&情報」に最近アップしたニュースやトピックスをお知らせします。
【国際シンポジウム】
さる10月18日、金沢で国際シンポジウムが開催されました。石川県認定こども園協会、金沢市認定こども園協会とともに、弊研究所も主催の一翼を担いました。
オックスフォード大学のE.メルウィッシュ名誉教授をお招きし、「0歳からの保育実践が問いかけるもの~教育・保育の質と専門性を考える~」をテーマに、特別記念講演とパネルディスカッションを行いました。
パネルディスカッションには、メルウィッシュ名誉教授のほか、パネラーとして秋田喜代美・学習院大学教授、野澤祥子・東京大学准教授、開仁志・金沢星稜大学教授、地元石川・金沢の木村昭仁・龍雲寺学園バウデア学舎学園長にご参加いただき、弊研究所の吉田が進行を務めました。
国際シンポジウムの詳しい内容や当日の資料については、遅くとも年内には研究所WEBサイトの会員ページに載せる予定ですが、このメルマガではシンポジウム全体を通して感じたことをエッセイ風に述べてみたいと思います。
まず、メルウィッシュ名誉教授の講演では、これまで何回か聴いた内容と重なりますが、乳幼児期の子どもの健やかな育ちにためには質の高い教育・保育が必要であるということに加えて、親の所得や職業、学歴などによって大きく左右されるということが、様々な調査や神経科学によって明らかになっています。特に、それは言語面の発達に顕著に見られます。そして、自己制御という社会情動的スキルの発達にも影響するということです。
また、教育・保育の成果は、低所得家庭や困難な状況に置かれている家庭の子どもにこそ有効であるということも明らかになっています。誤解を恐れずに言えば、子どもの健やかな育ちには、家族的要因や家庭学習環境、教育・保育、就学後の教育など、いろいろな要因が影響を与えていて、これら諸要因のうち機能のより低いものが、子どもの育ちの足を引っ張ると考えることができます。言い換えると、高い機能要因が低い機能要因を補う側面があるということです。
つまり、貧困な家庭の子どもには、家庭機能の低い要因を教育・保育機能が補って、子どもの育ちに貢献できると考えていいかもしれません。逆に、非常に素晴らしい家庭環境に生まれ育った子供に対して、もし質の低い教育・保育が提供されれば、低機能の教育・保育が子どもの育ちにマイナスに作用する可能性があるということです。ただし、家庭機能の向上に向けた支援も重要であるということを忘れてはいけません。
一方、そこで大切になるのは、教育・保育の質が高い、低いということをどうやって測れるのか、質を高めるにはどのような取り組みが必要なのか、といったことをエビデンスベースで探求していくことになります。
そんなことを考えながら、国際シンポジウムを振り返ったりしています。
【海外視察】
国際シンポジウムの翌々日から、コペンハーゲン(デンマーク)とストックホルム(スウェーデン)に海外視察に来ています。
この雑感を書いているのは10月23日ですが、21日と22日はレッジョ・エミリアに影響を受け、そこから学んだ保育施設や森の幼稚園などを視察しました。そして、今回の視察の目玉であるデンマーク評価研究所(EVA)を訪問しました。国の評価機関であるEVAは、個々の施設を評価するのではなく、デンマークの教育全体の質の向上を図るための評価・検証を行う機関とのことでした。
ここを訪ねた目的は、2年ほど前に保育の質に関する全国評価を行ったと聞いたので、どのような調査が行われ、どのような結果が得られたのか、その結果がデンマークの保育政策にどう生かされるのか、といったことを知ることでした。
具体的な内容は、得られた情報をこれから整理して、まとめたいと考えていますが、興味深いのはエビデンスベースで保育の質にアプローチしようとし、そのために国も自治体も一定のコストをかけることを厭わないということでした。
人口600万人の国で、今回の調査にかけた費用は約3億円という話でした。評価の尺度は、ECERS、SSTEW、ITERS などとは違うKIDSという独自の評価スケールです。今回の調査は0-2歳児が対象で、来年には3-5歳児の調査を行うそうです。
今回の調査では、保育施設の4割近くが質が低いと評価されたそうですが、その質を上げるための取り組みはこれから検討していくと説明を受けました。我々とのセッションが終わったら、教育省の大臣と会って話をするとのことで、調査研究と制度・政策の動きがリンクしている印象を受けました。