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今後の私大政策が保育に投げかける示唆

  • 執筆者の写真: 吉田正幸
    吉田正幸
  • 3 日前
  • 読了時間: 3分

経営難と保育人材難のダブル危機にどう対応するか


 文部科学省は先ごろ、「2040年を見据えて社会とともに歩む私立大学の在り方検討会議」の中間まとめを公表しましたが、そこからは幼児教育・保育分野にも通じる課題が浮き彫りになるとともに、保育者を含むエッセンシャルワーカー養成の重要性が明らかにされています。ここから保育分野へのアナロジーとして読み取れるものをピックアップしてみたいと思います。

 中間まとめによると、私大への進学者数は2021年の62.7万人から2040年には46.0万人にまで約27%も減少すると見込まれており、「現在ある法人の全てが存続することはあり得ず、相当数の法人が縮小や撤退を余儀なくされることを覚悟しなければならない」と指摘しています。

 しかも、地方に立地する私立大学 ほとんどが小規模であることから、「地方の人口減少の影響も考慮すると、地方の小規模私立大学から撤退しかねない可能性を示唆している」と捉えています。

 そのため、中間まとめは、再編・統合等による規模の適正化に向けた私立大学の経営改革強化への転換が必要だとして、「リスクが高い学校法人への経営指導の強化)」や「学校法人間の連携・合併、円滑な撤退に向けた支援」などの方策を挙げています。ちなみに、リスクが高い指導対象法人は100校程度とみており、これは全ての私大の約16%にあたります。

 保育分野に関しても、今年度の調査研究事業の一環として、「保育所等の合併・事業譲渡等に関する実態調査」に乗り出しており、もはや避けては通れない課題となっています。ただし、保育の場合は、極めて地域性が高いことから、地域の保育提供体制の維持・継続のための手段の一つであると位置づけられています。

 保育に比べれば、大学は相対的に規模も大きく、施設の数も多いこともあって、「リスクが高い学校法人への経営指導の強化)」が挙げられていますが、保育の場合は多機能化やダウンサイジング(定員の縮小)が課題にされていても、施設や法人に対する経営指導強化という発想はないようです。

 一方、私大振興に向けた「機能や成果に応じた国の支援の強化」に関しては、教師や保育士、看護師など地域のエッセンシャルワーカーの育成や地域経済の担い手となる人材の育成、大学の教育研究の質の向上に向けた取り組みなどに着目し、私学助成について従来のような一律の配分からメリハリ・重点化への転換を図るよう求めています。

 特に、保育士等のエッセンシャルワーカーの育成については、私大が主要な役割を果たしていることから、こうした人材育成を担う地方中小規模大学への私学助成の一層の重点化が期待されます。ただ、学生募集停止に踏み切る地方の保育者養成系私大・短大が増えつつあるだけに、スピード感をもった対応が期待されます。

 同時に保育の側も、認定こども園、保育所、幼稚園等を問わず、魅力ある職場づくりをすすめ、地方中小規模の養成校への進学を希望する学生が増えるような努力をしなければ、私学助成を充実させたところで学生が集まらなければ大学倒産は避けられません。お互いが運命共同体として、保育分野の充実を通して地域振興に貢献してほしいものです。

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