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日本建築学会が保育室内の音環境の改善を要望

  • 執筆者の写真: 吉田正幸
    吉田正幸
  • 5 日前
  • 読了時間: 4分

“子どもはうるさくて当たり前”幻想からの脱却を

  一般社団法人日本建築学会の環境工学委員会・音環境運営委員会は11 月17 日、こども家庭庁に対して「こども施設における室内騒音環境の改善への要望書」を提出しました。保育室内の音環境については、これまでもいろいろな調査研究が行われ、保育室内の騒音状態などが指摘されてきましたが、なかなか改善に向けた取り組みが進まないことから、子どもにとって良好な音環境を整備するよう求めたものです。

 今回の要望書から見えてくる課題は、単に吸音や遮音という音環境そのものの問題にとどまらず、伝統的な子ども観や保育観の一部に「子どもはうるさくて当たり前」「子どもは賑やかなほうが良い」といった捉え方があるのではないかということです。

 けれども、筆者が先月訪れたレッジョ・エミリアの保育施設では、子どもたちが自分の興味・関心のある遊びに集中し、室内には一定の静けさが保たれていました。6、7年前に訪問したレッジョ・アプローチの施設では、室内の騒音が気になったので天井に吸音材を取り付けたという話を聞かせてくれました。

 また、音環境に対する誤った捉え方が許容されてきたためか、我が国の施設設備に関する基準においても音環境に関する基準や指針はありません。イギリスやドイツ、スウェーデン、フィンランドなどでは、子どもの施設等を対象とした音環境の基準・指針などがあり、WHO(世界保健機関)が1999年に示した環境騒音ガイドラインには、言葉の発達の途上にある乳幼児も含めて、騒音レベ ルや残響時間を目安とした静かで響きの少ない音環境が推奨されています。

 こうした状況を踏まえて、今回の要望書では、特に「吸音」に焦点を当てて、室内騒音環境の改善を図ることが重要であるとして、施設整備における吸音仕上げの採用や吸音改修への助成を実施するよう要望しています。保育室内の騒音については、これまでも調査研究が行われ、その改善の必要性が指摘されてきましたが、期待されるほど改善が進んでいないのが実情でした。

 要望書では、「言葉の発達の途上にある乳幼児には『聞き取りやすく騒がしくなりにくい』という音環境の面からの環境改善がとりわけ重要」だとして、「こども施設における室内騒音環境の改善に向けた施策の整備」を求めています。

 特に「吸音」については、室内の反射音を吸収する「吸音」が十分になされていない場合、「室内の反射音によって乳幼児の会話コミュニケーションが阻害され、さらに大声が増加して喧騒を生じて、乳幼児だけではなく保育者の労働環境にも悪影響を及ぼしている状況」があると指摘。「吸音」の普及に焦点を当てて具体的な対策を講じるよう要望しています。

 具体的には次のような施策の実施を要望しています。

○乳幼児にとって、さらには保育者にとって、「聞き取りやすく騒がしくなりにくい」施設環境整備のための吸音仕上げの重要性の啓発

○発達障害傾向のあるこどもは、音に対する過敏や苦痛、集中の阻害などの悪影響を被りやすいことを踏まえた、吸音等による落ち着いた環境づくりの重要性の啓発

○認可保育所等の設置指針における吸音仕上げに関する言及

○施設整備における吸音仕上げの採用、吸音改修への助成

○吸音をはじめとするこども施設の建築環境整備の効果に関する実証研究の促進

 

 なお、参考までに以下の関連資料を会員ページの「情報データベース」(その他)に掲載しておきます。

・こども家庭庁への要望書提出について(日本建築学会)

・こどものための音環境づくり(こどものための音環境デザイン、ADC)

・保育室の音環境についての調査(和歌山市民間保育協会)

・保育の音環境と保育の質(藤女子大学紀要)

・子どもの育ちを支える保育環境づくりに向けて(木造施設協議会)

・ドイツ・ミュンヘン市域における保育施設の音環境設計に関する視察調査(日本建築学会技術報告集)

・日本建築学会による「保育施設の音環境」推奨値について(保育施設の室内音環境改善協議会)

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