利用ニーズほど増えない一時預かり事業
- 吉田正幸

- 9月12日
- 読了時間: 3分
更新日:9月13日
こども誰でも通園制度に流れる可能性も
こども家庭庁の令和8年度概算要求の中で、人件費等の上昇に対応するため、一時預かり事業の補助金額がベースアップされました。ただ、同庁の資料によると、実施か所数こそ増えているものの、延べ利用児童数は必ずしも増えておらず、10年前に比べてむしろ減っているのが実情です。
これは、一時預かりのニーズが減っているのではなく、実施市町村が8割程度にとどまっていることや、利用料が1時間当たり500~1000円程度と決して安くないことなどから、利用が抑制されている面もあると考えられます。
こうした状況で来年度から「こども誰でも通園制度」が全国実施されれば、1時間300円程度(来年度は未定)で月10時間までは利用できることになるため、一時預かり利用者が流れてくることも含めて、一定以上の利用者が生じる可能性があります。
誤解を恐れずに言えば、一時預かりは冠婚葬祭や通院、保護者のリフレッシュなど、よい意味で親のための仕組み、「こども誰でも通園制度」は子どもの育ちのための仕組みです。つまり、似て非なる仕組みなのですが、保護者にとっては便利な仕組みとして受け止められる可能性が高く、両者の違いはあまり意識されないと思われます。
そうなれば、利用料が安く、一時預かりよりも身近に利用できる施設・事業者が多い「こども誰でも通園制度」のほうに流れることは必定です。施設・事業者のほうも、給付による安定した収入が得られる「こども誰でも通園制度」に対応するところが増えると予想されます。
本来は制度や仕組みの趣旨、目的が違うにもかかわらず、両者の違いがあまり理解されないまま、両者のバランスが大きく崩れていく可能性も否定できません。そうならないためにも、両者の違いや特性を十分に説明し、理解を求めるとともに、一時預かり事業を財政面も含めて拡充し、利用者のニーズに柔軟に応えられるよう、運用を改善していく必要があります。
同庁の資料によると、一時預かり事業のうち保育所その他の場所で対応する一般型の延べ利用児童数は令和5年度で378万7496人(10年前より27万5727人の減少)、保育所等において定員割れを起こしている場合に定員まで一時預かり事業として受け入れる余裕活用型は6万8377人(運用が始まった9年前より5万9512人の増加)となっています。待機児童の減少と比例するように余裕活用型が増え続けている一方、一般型はむしろ減少傾向にあり、全体としても減ってきているのが実情です。
また、一時預かり事業を実施している市町村の割合は全国平均で81.5%となっており、福島54.2%、高知55.9%、沖縄58.5%、群馬65.7%、熊本68.9%など実施市町村の割合が低い県も少なくありません。
一時預かり事業は、子ども・子育て支援法上の地域子ども・子育て支援事業に位置づけられ、市町村に努力義務が課されているだけで、実質的には市町村の任意です。補助金の割合は、国1/3、都道府県1/3、市町村1/3となっています。
これに対して「こども誰でも通園制度」は、権利性の高い給付という仕組みで、負担割合も来年度から始まる子ども・子育て支援金制度によって支援納付金が1/2、国が1/4、都道府県が1/8、市町村が1/8となっており、市町村は第3期事業計画の中に需給見込みを盛り込まなければなりません。それだけ強い仕組みになっているだけに、一時預かり事業より力が入ることは確かです。しかし、「こども誰でも通園制度」が本来の役割を果たすためには、一時預かり事業も拡充することが欠かせないのですが…。
*このトピックスの内容については、近日中に会員ページの「オリジナルコラム」でも取り上げる予定です。

